五十の舞 その10

 右手に御嶽駅がある。 気づかんかったが、ここって御嶽山の入り口だったのか! 登っているのに気づかんかったよ、困ったもんだ。 左手に警察に通行止めされている陸橋が見える、俺たちが走るために止めてくれているんだなぁっと思うと、感動する。 走らせてもらっているんだよな。 

 そろそろ折り返しだと思うんだが、波帯車線にも止め処なく人が走っておる。 折り返した連中が、ゴール目指してひた走っておる。 俺も間もなくゴール目指してひた走る。 今のところ、脚の調子は悪くない。 安全策をとって、ゆっくり走っておるせいもある。 大切なことは、しっかりと走りきることだ。 

 折り返しってさ、当然だけれど、半分しか来ておらん訳だ。 後半戦、出〜発!! こっから先、「あぁやっと、半分まで走れたぁ」 って思う人は、気持ちが走りに出ちゃう、歩き始めちゃうんだ。 周りに歩く人が出てくると、釣られて歩いちゃう人もおる。 こっちの水は甘〜いぞじゃないけれど、寄ってちゃう。 俺か? 俺は、まだ大丈夫だ。 

 そうそう、確か復路の難所があったな、基本下りなんだけれど、所々に上りがある。 長〜い上りが1箇所あるんだ。 前に走ったときは、上りの回数を覚えていて難所に備えたんだけれど、今回は、そんなことは考えておらん! いつもの行き当たりばったり。 走っていれば、いずれゴールに辿り着くってもんだ。 
 やっと、徐々にバラけてきた、ここら辺までくると、周りにいる連中と力量はさほど、変わらない。 アップダウンで、順番は変わるけれど、大幅に変わるもんじゃない。 引っ張って走るよりか、引っ張ってもらったほうが楽だ。 運転手は君だ、車掌は僕だ。 振り返ると俺のケツにも、誰かが着いておるんだろう。

 脹脛が、ちょいとばかり嫌な感じになってきましたねぇ、まぁこんなことを繰り返してだな、走り抜けてゆくんだが、不思議なもんで、そこばっか痛いことはないんだ。 その場所が治まったと思ったら、違う場所が痛くなってくる。 そんなことを繰り返して、走っている。 最終的に膝に来たら 「ハイ、それまで!」 

 腹減ってきたな、何か食わねぇとガス欠になっちまう。 緩いコーナーの先が給水ポイントだ。 水を片手にウエストバッグから、ギュッと絞って小さくなったカステラを出して食う。 うまうま、疲れてきた頃の甘いもんは、たまらんね。 レース中、唯一の至極の時である。 周りも疲れが見え始めておる。 相変らず、水分摂取に好きなように時間を割くのだ。 みんな、飲んで早々に出っ発して行くが俺は、のんびりと走り出す。 良いじゃないか、これくらいさ。 

 歩くというのは、極自然な動きだ。 では、走るは? 俺たちの祖先は、頻繁に走っておったのかなぁ? これだけ、長い距離を走るのは、動物の中では人間だけだっけ? 動物は、距離を決めて走ることはしない、必要に迫られて走るわけだからな。 さて、人は、何故走るんだろう?