山は、やっぱ怖い

 先日の奥多摩は、アクシデントがあり、正しくは、結果として楽しかったというべきかな。 このところ、頻繁に山に登っておるから、若干なめているところがあったのかもしれない。 「これくらいの山、大した事はない」 と、はじめっから、容易いと思っているんだなぁ、これがいけない。 

 新しい靴の慣らしということで、登坂があり、足が四方八方に動く山であればよいと思いチョイスした。 1時間に1度休憩を取るという定石なやり方で登り、2時間後の10時半に椅子がある場所で、休憩しておった。 その場所から上に向かい、かなりの斜面が聳えておった。 「こいつ登るのか?」 と、ちょいとばかり引いた。 普通登らんだろ? というレベルね。 

 そこをだね、人が駆け降りてきたんだよ! そんな人も昇らんだろ?ってところを人が駆け降りてきた。 トレイルランナーが練習しておったんだな。 奥多摩は、耐久トレイルのレース場にもなっているから、練習しておる人も多い。 「あぁ登れるんだ」 登山道なんだと思うだろ? 迷いもなく、そこを登山道だと思い込んでしまった。 

 休憩終了後、その登坂を登りだした。 「やっぱ、急だなぁ」 と思いながらガンガン登り、平らな所に出た。 人が踏みならした後がないから、草が生い茂っておるんだ。 左手の見ると、道が一本走っている 「こっちにもルートがあるんだ、得てしてこのルートと最終的に合流するんだろう」 と思った。 この時点で気づけよって思うだろ? でも、思い込みというのは、恐ろしいもんで、突き進んでしまうんだな。 どんどんどんどん進んでしまった。 そして、木にマーキングはしてあるけれど、殆ど、人が通った形跡がなくなり、ここでやっと 「違う!」 と思う訳だ。 

 山において、ルートを間違えた場合の決まりごとは、「引き返す」 である。 俺も、その道を引き返した、が! 思っている以上に進んでしまっておって、引き返した方向を間違えてしまったんだな。 間違える訳ないだろ、そのまんま後ろを戻ればよいのだからと思うであろうが、登り切り、丘のようになっていて、フラットなところが360度だ。 どこを登って来たのか判らなくなってしまった。 上から覗き込んでも道が見えないから、ある程度まで、下りなければならず、正しいと思っている斜面を下りたら間違っておって、そーなると、どこがどこなんだか、さっぱりである。  

 マーキングのテープはあるのだが、複数貼ってあることに気付いた。 「こりゃ、ヤバイんじゃね」 と思い始める。 おいおい高が奥多摩で、道に迷って遭難かい? 山に関しては、高かろうが低かろうが遭難する時は、遭難するし、滑落する時は、滑落するのだ。 そんなこたぁ分かっているつもりだった。 

 とりあえず、登山道を探そう、登山道に出れば、正規ルートに戻れると思い、ここだ! と思う斜面を下りて、登山道があるかを確認する。 4個所下りるが、尽くはずれ。 人に踏み荒らされていないから、地面が緩く、踏み込めない、気をつけないと斜面が崩れる。 道に迷う&滑落になりたくないから、四つん這いになって斜面を登る、四つん這いから身体を立ちがらせると、荷物を背負っているから猛烈に筋力を使うんだ。 瞬く間に息が上がった。 「こーやって、体力が奪われてゆくのか」 悪足掻くから、疲れる。 木を伐採に来た樵に出会わないかなぁっと、淡い期待。 ルートを見つけたら下山しよう、今日は、綾がついた、昇らない。
 遭難の基本は、動かない事だが、高が奥多摩だろ? と、頭をかすめる。 自分自身の陥っている状況を認めたくないんだなぁ。 俺の他に4組登っているはずだ、近くを通過すれば、声が聞こえるんじゃないか? と思い耳を澄ますも、聞こえるのは鳥のさえずりしかない。 俺が、ここに一人で、そんな事を考えておる事を誰も気がつきゃしないんだろうなぁ、こんな状況で、クマさんと出会ったら、どーしよう。 
 その頃には、自分の背負っている食いもんの計算をしている。 おにぎり×2 明治アーモンドチョコレート アンパン 飲みかけのポカリ×1 ミネラルウォーター×2 ビバークになったらレインウエア着込むか、そんな事を思っていた。 ここまでの歩いた時間が2時間だろ、結構奥に来ちまったか、夕方までには時間がある。 焦るな。  

 でも、絶対! 遭難は出来ん、そんなことになったら絶対、彼女から「山に行くな」と言われかねない、自力で下山せねば! そんなこんなで時間は経過し、ふと、携帯を見た。 おぉアンテナ3本立ってるじゃ〜ん、ちょっと前は、圏外だったが、ここは行ける!! 早速、GPSを開き、現在地を確認。 それだけじゃ皆目見当がつかんから、持っているガイドブックの地図と照らし合わせ、位置を確認する。 左上に寺があるってことは、上に向かって進めば、道があるってことか? と当たりをつけ、正面の方向に歩きだし、下りはじめる。 下りてゆくと、右手の端に登山道が見えてきた!! 助かったぁ!! 登山道へ着地。 「やった!!」 声を出して喜ぶ。 その近くに看板が立っており、番号振ってある。 迷う前に見た番号7番で、今見ているのは9番、迷いながら先行したのか。 

 登山道を見つけた瞬間、俺の本能は、「登れ!」 と言っている。 バカだねぇ下山せずに先を進む事を選択した。 腕時計を見ると、11時を過ぎていた。 30分以上、迷っていたことになる。 頭のてっぺんから、爪先まで、汗だくだった。 「良かった、とりあえずは良かった」 
 山は、おっかねぇ。 

 この30分ほどの体力の消耗が効いたのか、暑さのせいか、後半の下山時に脹脛が攣りそうになった。 

 今回の教訓は、人が下りてきたからといって、そのルートが正しいとは判断しない。 人が入っていないルートと判断した時点で、引き返す。 コンパスは、必要だ。 GPSが効いたから良いようなもので、効かんかったら直観に頼る以外に術はない。 太陽の方角で、方向を定めようと思ったが今の正確な太陽の位置が判らん。 

 登山には、一に体力、二に知識、三に運である。 この三つなければ、昇る事は出来ない。 三に関しては、トラブルに看巻き込まれたときに状況が自分自身に対して運が良いか悪いかってこと。 自分自身の力だけでは、どうにもならん事がある。 山は、自己完結だからな。 道に迷って思ったが、ここで俺がこ―しておっても、誰も気がつかないんだろうなぁってことだ。 

 そんな話を彼女にしたら、毎回、俺が山に登っているときは心配だといっていた。 当然なのだが、登っている本人は、そんなことはこれっぱかしも思っちゃいない。 遭難しないし、滑落しないと思っている。 今回のことは、そんなことはないという俺自身への教訓になった。 心配させないような登山をせねばいかんと痛感した。 山は、やっぱ怖い。 だからといって、登らないことはない。