ラザァニア

 俺は、ラザニアが好きなんだ。 ちょっとしたイタリアン料理店に入ると、メニューで、ラザニアを探すんだけれど、なかなかお目に掛かれん。 俺が、ラザニアを知ったのは、NYだった。 金がねぇーから、デリカッセンに行って、美味そうなおかずを見繕って、パックに詰めて買って帰る。 見た目じゃ味が判らないから、とりあえず、美味そうな形をしているもんを買って帰る。 麺類や、ピザもどき、具材が変てこな海苔巻とか、色々あった。 そん中にチーズが掛かり、ミートソースにひき肉が覗く、トマトの美味しそうな匂いを醸し出しておったラザニアがあった。 思い返してみると、その食材がラザニアだと、どー判ったのか定かではない。 生まれてこの方、食ったことないんだから、それが 「ラザニア」 だって、判るはずがないんだ。 

 はじめ、パックに少しだけ、詰めて買ってみた。 もしかして、不味かったら、最悪だろ? ミートパイと、アップルパイを間違って買った時に学習した。 とりあえずは、一つだけ買ってみる。 ホテルに帰って、食ってみたら、美味いこと美味いこと、スパゲティとピザが合体したような代もんだった。 デリで、売っているようなもんだから、かなり下品な味なんだけれど、こてこてのイタリアの味で、俺は、すこぶる気に入った。 NYで、最後まで飽きずに食い続けたのは、ラザニアと、チャイニーズレストランの炒飯と、春巻だった。 

 だから、彼女から、「誕生日、何がいい?」 と聞かれて、「ラザニア食いたい!」 と、即答したのだ。 

 なかなか、ラザニアにお目に掛かれないから、安直にお願いしたんだけれど、これがまた、素直には出くわせんかった。 まず、1件目、俺の誕生日に何故か! 臨時休業! 普段、日曜日なんぞに休まない店なのに! そして、候補2件目、団体さん貸し切りの為、×。 こりゃ、ガストのラザニアかなぁっと、思っていたら、表参道で、予約が取れたと朗報が! 彼女が、苦労に苦労を重ね、予約してくれたイタリアンレストランである。 ちょっと、期待しまくりで、行った。 

 小さいレストランで、20席くらいしかないのかな。 既に4席しかなく、入り口手前か、カウンター席しかなかった。 普段だったら、手前のテーブル席をチョイスするのだが、風が強く、客が入ってくるたんび、風がピューっと、入ってくるので、カウンター席をチョイス。 目の前、調理場で、真横がコート掛け、真後ろがレジという、なかなか良い席でした。 若い店員さんばっかで、ニコニコしながら、料理して、給仕しておった。 おっさん、見ておって、好感を持っちゃいました。 

 「何でも、いいよ頼んで」 と言われたけど、誕生日を祝ってもらうなんて、マジ久しぶりなんで、照れちゃうし、遠慮気味のおっさん。 特製ラザニアを頼むことは、決まっておったけれど、他はなんも考えておらんかった。 ラザニア、俺の場合、ラザァニアと発音する。 どっかで、聞き覚えたんだろうなぁ、気抜くと、ラザァニアと発音する。 彼女も面白がって、「ラザァニア」 と発音。

 サラダと、バケットと、鴨のステーキを頼んだ。 飲み物は、久々に見たペリエ。 一昔前は、炭酸水と言ったら、ペリエしかなかったのに。 周りは、ワインや、ビールを飲んでおるが、うちらは、炭酸水で乾杯だ。 「48歳おめでとう!!」 「ヤバいよ、47歳まではさ、50歳の崖に片手しか、乗っけてないんだけれど、48歳ってさ、両手乗っけちゃってるよ! 身体持ち上げたら、50歳だで、どうしよう?」 ありがとう、こんな、おっさんと付き合ってくれて。 

 前菜にサラダを食って、特製ラザニアがやってきた。 熱々の鉄板がやってきて、ミートソースがピンク色だった。 ありゃ? と思ったが、ソースがちょっと緩めで、上品なラザニアだった。 味もやさしく、俺の知っている下品なラザニアではなかった。 でも、美味しかった。 そして、ラストに鴨ステーキが出てきた。 これが! 超美味しかった! 二人して、「美味しい!!」 と、絶叫! 最後の鴨に全部持って行かれてしまいましたさ。 嬉しさと、照れと、遠慮が複雑に絡み合った俺の誕生日でした。