Henro walker 5月16日

 「早いなぁ」 と、言いながらお坊さんがやってきた。 それほど、差はついていないと思うけれど、追う方は、どれくらい差がついているか、判らないから、そんな気がするんだ。 ここが頂上のようだ、ここからは、下りになる。 いやぁありがたい! メガネ女子が到着した。 足を引きずっているようだ。 バンテリン効かんかったな。 「膝痛い?」 「ちょっと、痛い」 多分、ちょっとじゃないだろうなぁ。 比較的、俺は、膝を傷めない方なんだけれど、フルマラソンのときは、いつも練習不足で、傷める。 だから、どれくらい痛いかは、想像がつくんだなぁ。

 ここで、4人になり、再び、小さいキャラバンが結成された。 

 一般道に出ると、そこに集落が見えた。 山間の中に家が僅かながら見えるのだ。 車だったら、どれ位で町に出るのだろうか? 車がないと、生活出来んな、こりゃ。 そして、ほぼ毎日、お遍路が通過してゆくのだろう。 人数の上限はあるけれど、生活の中に密接にならざるを得ないよな。 保育園のガキンチョが毎日、公園にゆくのに通過するのとは、訳が違うよな。 

 人数が揃うと、歩きがゆっくりになる。 みんな、話しながら歩くからである。 一人だと、只ひたすら行程をこなすだけだ。 そのゆっくりな歩きでも、メガネ女子は、遅れが出ていた。 「ちょっと、難しいかなぁ」 っと、俺は思っていた。 気になりだすと、どうしようもなく、心配になってくる。 他の二人のおじさんは、気にも掛けず、話に夢中で、スタスタ先に行ってしまう。 

 「気にせず、先に行ってもらって良いですよ」 「大丈夫ですよ」 そんな会話をしながら歩いていた。 少し先で、お坊さんたちが待っていた。 「あぁ膝、痛くなっちゃったぁ」 膝の痛みは、マラソンで、よー分かっている。 どれ位の痛みかは、想像がつく。 今の時間が、8時位かぁ、ここから、4時間は歩かないと、次の目的地、大日寺には着かんだろう。 メガネの女子とは、昨晩、ちょっと話をしただけだから、込み入った話しは出来んな、みんな、自分自身の目標を持って、ここに来ておる訳だからさ。 

 さて、どうするかと、考えちゃいたけれど、選択肢は持っていた。 普段、山に行くとき、必ず持ってゆくものがある。 テーピングである。 但し、自分自身に使うということ限定である。 如何せん、固定することを目的にしているから、自分自身の脚以外にはやらない。 それを他人に行なうべきかどうか? と、考えておったのだ。 会って間もない人にテーピングするのは、ありか? 

 「自分自身にやるんじゃないから、冒険だけど、テーピングで押さえてみる?」 「いいんですか?」 予想外の返答だった。 それだけ、キツイのかな。 「俺が出来るのは、膝を固定して、曲げないようにすることしか出来ないけれど、いいかな」 「お願いします」 

 俺の足だったら、触ったり、痛みを感じて、テーピングは巻けるんだが、他人様の足は、冒険である。 変な巻き方をして、傷めてしまう訳にはいかんからね。 「じゃーズボンの上から、巻きますね」 ズボンの上から、膝から、太腿までを触ったら、細かった。 俺の足ばっか触っている所為もあるが、「細いなあ」 という印象を持った。 本当は、正面の弁慶から縦に二本走らせ、それがずれないように脇からカバーするように巻けば、押さえ込む事が出来るのだが、会って間もない人の足を直に触るのは、憚られる。 
 
 膝に縦に走らせ、挟むように横に走らせた。 動かしてしまうから、痛いので、それを固定することで、緩和させることしか出来ん。 膝の痛みは、フルマラソンで散々味わっているから、どれ位の痛みかは理解している。 

 「これで、どうですか?」 ズボンの上から、テーピングをする人は、あんまいない。 ゆっくり、歩いてみる。 「大分、楽になりました、ありがとうございます」 
 俺は、彼女と、このあと、5時間一緒に歩くことになるのである。