Henro walker 5月14日

 宿坊ビジネスホテルに泊まった晩、窓から夜空を眺め、町があり、疎らに見える光のある方向を眺めておった。 普段、夜の闇は怖いのに一切の明るさを感じさせない闇は、怖さを感じないのだ。 そして、時折聞こえる車の走り去る音。 東京じゃ考えられない。 俺んちじゃ、四六時中音がしているし、街灯は、道を照らし、闇に目を慣れさせる必要はない。 
 カナダのイエローナイフに行ったとき、漆黒の闇の中、数メートル先が見えずに足下さえ確保することがやっとだった。 でも、それを怖いとはこれっぱかしも思わなかった。 なんだろうねぇ、本当の闇は、人を安心させる作用があると思う。 俺は、闇を照らす、唯一の光、まん丸の月を眺めていた。 当然、俺は、一人じゃなかった。 みんな軽くなっちまったから、写真を持ち運ぶことで、一緒に連れてゆく事が出来るようになった。 カナダには雅美を連れて行った。 今回は、当然、おふくろも連れてゆき、チーも、さびしいだろうと思い連れて来た。 
 
 ネットで、お遍路を調べるとき、「お遍路 一人旅」 と入力した。 すると必ず、「お遍路 同行二人」 と出てくる。 うーーん、なぜ二人? これは、「どうぎょうににん」 と読むのだ。 俺は、知らんから、「どうこうふたり」 と読んでおった。 これは、お遍路旅で持つ、金剛の杖を空海に見立て、いつでも一人じゃありません、空海が一緒に居ますということなのだ。 俺は、既に同行三人と一匹なのである。 

 朝飯は、7時からだった。 食堂に行くと、みんな着替え終わり、用意万端いつでもOK状態だった。 俺はちゅーと、浴衣のまんまで、飯を食っておった。 「君は、ゆっくりだね」 と、隣のおっさんに要らんお節介を言われ、ちょっと腹が立った。 おっさんにゃ関係ないだろ? それにおっさんは、車で、お遍路周っていること知っていた。 歩いて周っている人たちには、「歩いて周っているんだ」 という自負がある。 だが、この自負が弱点になることもある。 
 朝から、しっかり飯を食うなんて、一体何年ぶりなんだよ? 

 大切なのは、今日、明日だと思っている。 初日は、なんでもそーだけれど、こなすことは出来るんだ。 誤魔化しながらでも、無理すりゃー出来るんさ。 疲れを感じ始めても、歩くことが出来りゃ問題なし。 今日も暑くなるようだ。 十楽寺を出て、右へ進む。 県道ではなく、脇道に入り、車の少ない方へとゆく。 ジーンズ姿のおじさんが先行で歩いている。 当然、地図も見んと、遍路道の案内に従い進む。 

 田園風景を見ながら、朝の冷たい風を受けながら歩く。 Tシャツだと、ちょっとばかり寒いが、もう少しすると日差しも強くなってくるだろう。 前を見ながら歩いておったら 「歩くの早いですね」 と、ジーンズ姿のおじさんから声を掛けられた。 「お遍路ですか?」 「はい、これからまだ、道中長いですから、序盤から無理してもしようがないですよ」 「何回目ですか?」 「2回目です」 経験者から、情報を得ることが、ガイドブックなんかよりも手堅い。 おじさんは、前回のお遍路で、頑張らなきゃと思い、一生懸命歩いたら、足の裏全部が水膨れになり、どこを着いても痛い状態になりながらも、歩き続けたらしい。 「そんな状態で、歩き続けたんですか?」 と、聞いたら、「こーいうことが、お遍路だと思った」 と、言っておった。 お遍路道、奥深し。 
 3日目に通過する焼山寺について質問した。 「普通だと思いますよ」 という拍子抜けな返答。 「高尾山くらいですか?」 と、ベタな質問に 「長野なので、ちょっと判らないです」 長野といったら、山の宝庫じゃないか、ちょっと、太刀打ちできないじゃない。 

 おじさんに合わせ、ゆっくり歩いておったら、「おはようございます」 振り返ると、昨日の顔を真っ赤にして、一生懸命歩いておった女性。 「ありゃ、おはようございます、早いですね」 確か、6番目の安楽寺に泊まって居ったはずだから、結構、早めに出ているな。 「じゃあ、お先に」 頑張って、歩いている。

 俺も、そのあとを追っかける。 もう一人、トレイルっぽい恰好をしたおじさんが居り、4人で、微妙な一直線になった。 俺は、地図を持っておらんから、先行で、彼女が引っ張ってくれるのがありがたかった。 片手に例の遍路道保存会が出版した地図を持っておった。 細い路地をうねうね進む。 東京は、区画整理されてしまい、細い路地のうねうねは減った。 

 程なくすると、周辺田園風景と化す。 360度フラットな世界、カンボジアに行ってから、フラットな風景が好きになった。 なーんも遮るもんがない世界好きだ。 それまでは、NYの摩天楼が好きだったのにカンボジア以降は、平面最高。 

 右手に古めかしい山門が見える。でかい山門だ。 左右に守りの神様なのかな、祀ってある。 風神、雷神なのかな。 この時代の怖い顔をした門番は、今にも動き出しそうな躍動感がある。 確かキカイダー01は、神様割って中から出てくるんだったよな。 そんな怖いだけではない親しみもあったりする。 正面から、「今日も、暑くなっちゃうからね!」 って、太陽が照りつける。 順番に4名、熊谷寺に入り、他の方々は、線香を上げ、お祈りして、願札を入れ、朱印を受けに行く、俺は、線香を上げ、お祈りして、願札を入れ撤収。 次の寺へ出発。