Henro walker 5月16日

 この場合、タクシーに乗って、近場まで行き、リタイアするのが、常套手段だと思っていた。 膝が痛い中、歩き続けるのは、辛いからな。 テーピングや、冷却スプレーにしても、気休めでしかないことは、マラソンで、よー判っている。 歩き続ける限り、痛みが増すことはあっても、引くことはない。 

 「どうします? どこかで、タクシー呼んで、宿の近くまで、行きます?」 「いいえ、大丈夫です」 このまま、一人で、歩かせる訳にはいかんからなぁ、どーすっかなぁ。 俺の頭の中には、「どーすっかなぁ」 と 「うーーん」 が渦巻いておった。 何にしても、歩くといっている限りは、止めることは出来んからな。 

 緩やかなカーブを抜け、下山した。 ちょっとした店と、自動販売機が見える。 その店の軒先に笠を被ったおじさんが、俺たちを手招いている。 「誰だろう、手招いていない? 知り合い?」 「いいえ、知らない人」 遠目に見て、なんとなく怒っている気がする。 何故に? 店に近づくと、より一層、手招きが激しくなる! 間違いなく、俺たちを手招いている! 

 「だから、言ったじゃないか! 無理しちゃ駄目だって!」 いきなり、怒られた。 強面のおじさんである。 「身体の小さいおねちゃんは、どうした? あの子が一番心配だ 膝、痛めたか? どれ、見せてみろ」 彼女も、「は、はぁ・・・」 みたいな感じで、膝を見せていた。  膝から、脛にかけて、筋肉の繊維を見ているようだ。 「ここか?」 と言って、脛の繊維を触って聞く。 「だから、無理して登っちゃ駄目なんだよ、昨日の晩も、焼山寺まで行って、動けなくなったヤツがいて、下ろしてやったんだ」 このおじさんは、ここら辺をパトロールしている人? 俺は、隣で、成り行きを見守っておった、何が起きているのか、よー理解出来ておらんかった。 

 「これで、多少は、楽になっただろ? 治ったわけじゃないからな」 「ありがとうございます」 「おばちゃん、この子達にも飴と飲みもんをあげてやって」 店のおばちゃんから、ニッキ飴と、ポカリスエットをもらった。 「藤井寺まで、一緒に着いてってあげて、にいちゃん」 と、お願いされたが、俺自身は、その頃には着いて行こうと決めておったから 「はい」 と、答えた。 

 「この足じゃ、山道は無理だから、右のほうの国道を進んで行きなさい」 と、おばちゃんに言われた。 「無理すんじゃないぞ!」 と、強面のおじさんに送られ 「ありがとうございます」 と、二人して言い、そこを出た。 ちょっと離れて 「あのおじさん知っているの?」 「知らない」 「でもさ、話しの内容からすると、君のこと知っているっぽいよ」 「そうですよね、でも知らないです」 「なんか、神社の入り口にある、風神、雷神みたいな人だったね」 こーいう人たちに見守られながら、俺たちお遍路は、先を進むことが出来るのである。 

 右手に川が見える、鮎喰川である。 その名のとおり、鮎が取れるんだろうなぁ。 いやぁ、水が綺麗だ。 如何にも四国って感じ。 今日も、天気が良い、そこそこ気温も上がるのだろう。 地図を見て、ルートを確認。 この川沿いに進んでゆけば、目的の藤井寺に着くはずである。 春だというのに日差しが妙に強い。 俺の腕は、良い具合にローストされてしまったから、これ以上焼くのは、勘弁だ。 

 俺は、彼女の歩調に合わせ、後ろから着いて行った。 お互い、初対面のようなもんで、会話が問題だなぁ、やっぱ、こーいう場合は、笑いに逃げるしかねぇよなぁ。