空へ

 読みたい本があり、それが再刷されんと判っている場合、とりあえずは、古本屋を巡る。 行くたんび、気にかけて探すんだが、まず、見付らんね。 ネットが普及して悪しきものとしてだな、手に入らんもんは、値が上がるというか、上げるんだな。 だから、結果、古本屋にもなかなかで回らず、高値で取引されることになる。 最近は、版元を変えて、再発されるのを気長に待つことにしておる。 amazonとかで、買う側のリアクションが窺えるから、忍耐強く待つと再発されることが多くなった。 そんな調子で、手に入れたのが既に3冊ある。 そして、最近、4年待って、やっと手に入れた本がある。 「空へ」 である。 これは、俺が好んで読む、山岳もんである。 俺は、心霊もんや、ホラーなんかよりも、よっぽど怖いと思っている。 マンガでも、小説でも山岳もんは、需要があるようで、本屋に行くと、前のほうに並べてある。 が、俺は、そんな創作されたもんには、あんま興味はないし、事実の方が、はるかに凄い。 

 「空へ」 は、1996年5月に起きた、エベレスト遭難事故について、克明に書かれている。 この本の他にある山岳事故のノベルズと違うところは、その事故当事者が書いておるということだ。 

 80年代に入り、エベレストの募集登山が始まる。 素人を募って、金で登らせるということが流行り始めるんだ。 金持ちの飽くなき欲望が、金も入ったし、名声も得た、じゃー世界の名峰を制すようかとなったのか? 有名登山家のガイドが付き、シェルパという荷物持ちを従えて、頂上を目指す。 お一人様、日本円で、600万円也。 なかなかの破格っぷりであるが、先日の三浦雄一郎が登ったチームは、総額で、1億円ほど掛かったらしい。 

 登場人物と読んでいいのか判らないけれど、その遭難事故に関わった山岳隊のチームと、隊員たちの名前が列挙されておるんだけれど、まぁ、多い、多いことに驚いてしまう。 16チームである! 以前、エベレストの山頂に向かう登山者の列をなしている写真を見たことがあったが、「嘘だろ?」 っと、思った。 富士登山並みに人が連なっておったのだ。 想像しにくいよな、俺らの頃の修学旅行で、学生が止め処なく登ってくる感じだ。 

 エベレストの死亡率は、9.3%で、10人登りゃ、1人死ぬ計算だ。 まぁ、これは、統計でしかない。 エベレスト史上、最悪の遭難と言われた1996年5月の事故は、8名死亡した。 前半、登山者のパーソナリティーが語られる。 印象に残ったのが、セレブのサンディ・ヒル・ピットマン。 キャンプ地にビデオデッキを持ち込み、コスモポリタンや、ニューヨーカーをシェルパに毎週持ってこさせておったらしい。 アホとしか言いようがない。 あと、イアン・ウッダルという詐欺師。 何で、エベレストに詐欺師がいるんだ? と、思うだろ。 黒人で、はじめてエベレストに頂上へ登頂させると言い、南アフリカ政府に働きかけ、金を集め、該当する選ばれた国民は、入山許可を受けておらず登らせず、我が物顔でエベレストに来たアホ。 台湾のハチャメチャ登山隊や、IMAXの撮影隊、インドのハチャメチャ登山隊が入り乱れて、マジかよ? っという事故が起きる。 7000メートルを越えてくると、自分の事だけで精一杯になるようだ。 当然だよな、誰かを気にかけるという余裕はない。 そんな中を素人を従えて、登るのだ。 この時点で、無理があるよな。 
 
 著者が、第1ベースキャンプで、気持ちを落ち着けようと外に出ると、色鮮やかなブルーシートのようなものがあり、何なのか判らず、佇んでおって、それが、死体だと気づくとか。 時速80キロの風が吹く中をキャンプの設営をするのだ。 考えられんな、人のおる場所じゃない。 キャンプに着いたら、着いたで、ゴーーという風の音で、一睡もすることが出来ないし、食事も喉を通らない。 喉を通るのは、紅茶と、数枚のビスケット、それで、頂上アタックをしなけばならないのだ!! 
 各人が、ミスを犯し、結果、遭難に繋がる。 あまりの凄絶な内容で、マジに泣いてしまった。 事故の数日後、IMAX撮影隊が、頂上にアタックした折、頂上で遭難し、凍り付いているスコット・フィッシャーに友人のベイスチャーズが 「おーいスコット、具合はどうだ いったい、お前、どうしちまったんだ?」 と語りかける。 

 何故、エベレストに登るのか? という疑問に著者は 「神に近づくため、崇高な儀式」 と答えている。 もし、俺が、エベレストに登頂するチャンスをもらえるなら、迷わず、「Yes」 と答えるだろう。 第1ベースキャンプで、超後悔するだろうけれどさ!