1600キロ

 意外かもしれないが、俺はアウトドア派ではない。 インドア派なんだよ。 休日、外に出るのは、洗濯をしてコインランドリーに乾燥機をぶち込みに行くのと、夕飯の仕入れ、そしてランニングだ。 外に出なければ出来んことばっかだ。 お前、山に登るじゃないか! と言われそうだ。 彼女にも言われた 「だって、山は、家の中にないだろ、だから外に出るんだ」 ランニングも基本一緒、外じゃないと走れないから、ランニングをしに外に出る。 だから、他は音楽を聴きながら家の中に居る。 

 俺の外に出る理由というのは、おかしいかもしれないが家にないからだ。 家の中にランニングマシーンがあったら出ないかもしれない。 おふくろは、当然そこら辺のことを知っているから、俺のことを 「オタク」 と呼んでいた。 

 外に出る理由っちゅーのは、何かインスピレーションを受けるためかもしれない。 家に中に居って、本ばっか読んでおっても答えは出ない。 最終的には行動するしかない。 
 歩くというのは、人の基本的なことで、誰でも出来、歩いて進むことによって、今の自分自身からの変化を感じるのかもしれない。 走ることも一緒かな。 

 「わたしに会うまでの1600キロ」 っという映画が数年前やっていた。 何だ? この題名は、と思った。 陳腐な恋愛もんか? 気にも掛けずにスルーしておった。 だが、ふと、DVD発売の広告をクリックしてみた。 そしたら、陳腐な恋愛もんじゃなく、1600キロのトレイルの話しだった。 数ヶ月に渡って、山、沢、崖を登り歩き続けるってことだった。 本になって、映画化されちまうってことは、単純に歩くだけではないなと思い、探しに探した。 発売されてから、半年経過しておると、namazonで購入したほうがよろし。 でも、捜し求めて購入したくて、そっちこっち探したがなく、彼女にそんなことを言っておったら 「池袋のT武で、あったよ」 とメールを受ける。 早速、購入した。 

 ちょっとしたインスピレーションで買ったもんだから、パシフィック・クレスト・トレイルの存在も知らんかった。 この題名になっておる 「1600キロ」は、そのトレイルの歩く距離を現しておるのだ。 アメリカ人は、夏から秋にかけて、長期休暇を使いトレイルを歩くことをする輩が居るらしい。 日本人も最近、やれ休暇を取れ、強制有給消化とか言われちゃいるけれど、1月近くの長期休暇を取る連中は、外資系企業に入っておらん限りは無理だろ。 そんなもん申請したら 「何だ、お前、辞めるのか?」 と聞かれる。 まぁ、日本じゃ、数日間の連休を使い、連泊してどっかに行くのが関の山。 

 でもさ、大事なことって、そーいったことに挑戦することだと思うんだ。 挑戦しないと、何故挑戦するのか? という根本的なことさえも忘れてしまう。 

 俺は、アホみたいに休みの隙間見つけちゃ、山に行っておる。 とにかく、楽しいのだ。 行くたんび、新しい発見がある。 ありがたいことに彼女は、そんなアホな俺に理解がある。 先日、5年履いた登山靴が駄目になりつつあるから、完全に駄目になって、ソールが抜ける前に買い換えんべと思い、彼女に付き合ってもらい、新しいヤツを購入した。 23000円。 山に行ったり、マラソンをやったりすることに理解がなかったら、23000円の登山靴を買うことに苦言を言われかねない! 「ヨーカドーで売っている、5000円の靴とどこが違うの?」 と言われてしまうかもしれん。 当然、全然違う。 

 ある意味、最低限身体を守るための装備品である。 山グッズは高いねぇ、山登ってさ、高い装備品持っているのって、じいさん、ばあさんなんだよ。 頭の天辺から、爪先までで10万円前後掛かっているんじゃね、まぁ身体を守る金額だからね、しゃーないけれど。 俺も、そこそこのもんを持っているつもりだけれど、俺のより高いな。 アウターは、高いもんを買うけれど、インナーはウニクロ。 

 本を読んでから、1年後、映画を観る機会を得た。 

 さて、物語だが母子家庭の主人公が、母を失くし、失意のうちにどん底に落ち、そこから這い上がるためにパシフィック・クレスト・トレイルを歩破する実話。 俺が読んで、彼女に本を貸した。 当然、俺と彼女の頭に浮かんだのは、四国遍路だ。 アメリカにも似たようなとこがあるんだと思った。 四国遍路は、1400キロだ。 パシフィック・クレスト・トレイルは、1600キロ。 アメリカの方は、周辺に宿はない。 当然、野宿をしながら進んでゆくことになる。 こっちの方が過酷だな。 

 主人公を演じるのは、リース・ウィザースプーン。 キューティー・ブロンドに出ていた濱田マリに似てる女優さん。 本も、映画も同じとこからスタートする。 ちょっとした拍子に脱いだトレッキングシューズを谷底に落としてしまう!! 彼女に起きた出来事を現すにはよいスタートだ。 さて、これからどーしよう!! 

 このどん底というのが、生半可ではない。 薬はやるし、男とやるし、行きずりの男の子供まで出来てしまう有様。 母親には夢があり、娘にも夢があった。 だが、突然の母の死によってすべてが、空中解体してしまう。 人の死は、突然やってきやがる。 上手くいっておった出来事の邪魔をするんだ。 そのまま、人生丸ごと邪魔をされてしまうか、踏みとどまり、人生の修正を行うか? そーいうことだと思う。 修正の仕方には、エネルギーを伴う、猛烈なエネルギーを使う。 

 主人公のシェリル・ストレイドは、パシフィック・クレスト・トレイルを歩くことで、すべてをチャラにすることを思いつく。 何を考えているんだ! そんなバカなことと思うだろ、でも、外れちまったレールを元に戻すのには、それ位のエネルギーが必要だったんだと思う。 俺は、驚きはしない。 人は、単純な生き物じゃない。 何故、どうしてじゃ、差し計れんもんがある。 スマホ片手に生きていたって、面白くないってばさ。