分けずに一気に投下

 先日、今の会社に入って、初めての連休をもらった。 入った当初から、人が足りんから残業も多い。 以前よりも、忙しいにも関わらず、暇を見っけちゃ秩父に行っておる。 さて、今回の連休は、どうしようか? 毎回、秩父じゃ芸がないと、連休前から計画を練っておったのだが、9月に入ってからの1週間に1つ台風発生に伴い、天気がよろしくない。 連休初日に山に登り、翌日休養に当てるという計画を持ったおったが、台風発生の段階で、脆くも第1計画は流れた。 第2計画は、連休に2日目に行くという当たり前の計画だ。 
 初日雨が降り、翌日、回復という流れのようであった。 しゃーない、2日目に登ろうと思い、山選びに掛かった。 山選びといってもだ、俺が登れる山なんぞ高が知れておる。 神奈川、奥多摩、高尾、秩父である。 今回、秩父はチョイスから外したので、神奈川、奥多摩、高尾から選ぶことになる。 さて、どうするか、初めて登る山を選ぶか? 前日、雨である。 下がぬかるんでおるからな、予想がつく山がよろしということで、高尾山に決定する。 但し、以前から考えておった高尾から、陣馬山に抜けるルートで登りたいと考えていた。 

 前日、雨が降り、ぬかるんでいるから、足元注意である。 ハイキング並みの山でも、滑落すれば、怪我すっぞ、山なめんでねって、俺が一番なめているのか? 落ちるときは、一瞬だからな、気づいたときにゃ、さよなら、バイバイである。 気を抜かんことだ。 

 このところ、毎月、秩父に行っておるから、荷造りは手馴れたものだ。 とはいっても、カッパにリュックのレインカバー、折り畳み傘、着替え一式、こいつは、雨に濡れちゃいけないから、ビニール袋に入れて中に入れる。 そして、500のペットボトル×2本、片方はミネラルウォーターで、もう1本は、ポカリ。 アクエリアスじゃなくってポカリなんだよ。 両方とも水じゃなく、両方ともポカリじゃないのか? 飲み分けるんだよ。 通常、水で十分、汗をかきすぎて塩分が必要なときには、ポカリなのだ。 普段、ポカリなんぞ飲んでおったら、腹一杯になっちまうけれど、山で、疲れているときのポカリは、効くぞ、お試しあれ。 そして、おにぎり×2個に魚肉ソーセージに何か甘いもん。 秩父のときの昼飯は、いつもこのメニューが定番。 おにぎりだけだと、たんぱく質が取れないから、魚肉ソーセージを食うことにしている。 あと、帰りの電車の中で、食う甘い菓子パン。 アンパンとか、ドーナッツとかそんなもん。 これがねぇ、又、美味いんだよ。 

 これにデジカメが入る。 相変わらず、あのデジカメ使っていますよ。 どーも使える限りは、使っちゃうんだよね。 難を言えば、起動が遅いっちゅーことかな。 秩父だと、これに線香セットが付いてくる。 そうそう、山に登るときは、手拭をもってゆく。 こいつをね、首に巻いて登るんさ。 汗を吸収してくれるから良いんだ。 

 最近は、4時半とか、5時に起きるのに慣れてしまっている。 別段、仕事で夜中に起きだすから、慣れている訳じゃなく、山に行くというとそれくらいの時間に起き出し、飯を食って、ウォーミングアップをして出発する。 今回、高尾山口を8時前後にスタートしたいと思い、6時15分に家を出た。 6時半の電車に乗って、京王高尾山口に8時くらいに到着する予定だ。 

 9月初旬だから、日差しも強い。 こりゃ暑いなと思いながら、高尾に向かった。 高尾線に乗った辺りで、空が黒い。 この黒さは、雨が降っている黒さじゃね? と思い、窓から歩く人を見ると、傘差してるじゃん!! どーなってんだよ、昨日の予報で、晴れって言ってたじゃーーん。 マジかよ。 雨登山。 俺って、行い悪い。 職場で 「雨なんだから、家で静かにしてなさいって言われているんだよ」 と言われ 「雨だろうが何だろうが登ってやる!!」 と冗談で言っていた。 こりゃ、山の神が怒ったかな。 

 駅に降りると、平日の雨の翌日&現在も雨のせいで、登山者は少ない。 まずは、軒先から手を出して、雨の降り加減を確認する。 それほど、降っておらんが濡れるな。 カッパを上下着込むおばちゃん、ハーフパンツ、半袖でおるあんちゃん、下だけカッパを履くおねえちゃん。 それだな、カッパの下だけ履くか。 リュックは、どうするか、とりあえず、良いか。 

 久々にカッパの下を履いた。 四国のときに買ったミズノのヤツで、なかなか使い勝手が良いのだ、但し、ゴアテックスじゃない! 靴を履いたまんま履けるように裾のジッパーが広く開く。 何故に上じゃなくて、下だけの履くのか? 雨は、間もなく止むだろうが、道が悪路になっているだろうから、泥の中を入るのなら、カッパかなと。 

 上は、長袖を着込んでいる。 ダンガリーシャツではなく、モンベルの登山用のシャツだ。 速乾で通気性が高い。 速乾は間違いないのだが、通気性は暑い時期に長袖着ると、何着ても暑いよな、着比べてみれば、きっと、快適なんだろうけどね。 俺の山岳グッズも、一回転し、壊れるもんは、壊れ、破けるもんは破れた。 新しく買い換えた。 俺と彼女の合言葉は、買ったら10年使うである。 

 登山口に差し掛かる、さすがに泥んでおる。 石やら、木の根っこやらあるから、気をつけないと滑る。 滑って、打ち所が悪ければ怪我をする。 高かろうが低かろうが関係ない。 普段の3割減くらいのスピードで登っている。 時計を見ると、8時20分を回っていた。 

 まずは、高尾山頂上通過である。 そして、山の状態、天候を見て、先に進もうと考えておる。 天候悪い状態で、長丁場&初踏破のエリアは、ちょいと慎重になる。 確かに連山といってもだ、高尾からの山だから、それほどのもんじゃないと思っている。 だが、嘗めて掛かるとだな今日は、手酷いしっぺ返しがあると思われ。 

 思っていたよりも雨が降りかかるので、リュックにレインカバーをつけることにした。 とりあえずは、ストレス軽減である。 いつもの念ために入れてある雨グッズが活躍中だ。 

 6号登山ルートをいつも使って登っている。 ここは、あれだ普通の登山ルートと言っても、分かりづらいな。 1号ルートは、最初っから、最後まで舗装されたルートなのだ。 以前は、途中まで舗装で、そっから先は、登山ルートだったんだけれど、ミシュランに載っかってから山らしさをドンドン失っていった。 ロープウェイ降りて直ぐのとこにビアガーデンはあるし、最近、駅降りてすぐのとこにスパまで出来てしまっている。 まるで人の手でサイボーグ化された山のようである。 

 だから俺は、いつも6号ルートから登ることにしておる。 平日で、雨だから、閑散としておってよろし。 雨の山は、四国の焼山寺以来だ。 基本、前日に雨が降ると、登らんことにしておるチキン野郎である。 何故に今回だけ、登ろうと思ったのか? うーーん、よー判らん! 足元の注意し、登ってゆく、3割減であったも高齢者の登山者や、初心者に比べれば、はるかに早い。 すたこらさっさと登ってゆく。 前に人が登っておると 「すいません、抜かします」 と声をかけ、脇をすり抜けてゆく。 木々の間から見える空は、曇り、靄っている。 

 予定では、高尾山の頂上を1時間で通過する予定である。 曇って雨が降っておると、高尾山でも鬱蒼としておって妙に神々しい。 霊山だからな、当然ちゃ当然だが、舗装しちゃ駄目だよな。 雨が降った翌日は、泥かるんじまって来る人も少なくなるかもしれないけれどさ、駄目だよな、そんなことしちゃ。 そんなことを思いながら、足元と、近場の順路を見ながら登る。 こんな靄った山の中で、ある〜ぅ日、森の中ぁ! くまさんに 出会ったら、ビビるだろうなぁ。 森林伐採やら、山自体を切り開いちまって平らにしちまうんだから、動物も住む場所を奪われ、食い物を奪われた。 でも、生きてゆかなくっちゃならんからな、里に下りてくるんだろう。 秩父を歩いておって、数百メートル先の道路を4本足の何かが歩いているのが見えて、犬か? と思って、よーく見たら、背中に子供を背負ったサルだった。 周辺にゃ工場が立ち並び、トラックの往来があるようなとこだった。 自分の目を疑った。 そのあとにもう1匹、同じように背中に子供を背負ったサルが通過して、幻じゃねぇやと思った。 

 すたこらすたこら登っておったら、靴紐が解けちまった。 きっちり結んでいるつもりなのに緩くなってくる。 ちょっと後を抜かした若い登山者がおった。 邪魔にならんように開けた場所が出てくるまで待って、脇により、紐を結んだ。 「靴紐を結ぶので、先に行ってください」 と道を譲ったのだが、行きたがらない。 何故に? と思ったが気にかけずに靴紐を結んでおった。 足取りに習って登っていたのかと、思った。 この手の滑りやすい時は、足運びが重要だと思う。 登山路をを見て、どこに足を置いて、次にどこに置くか? ということ。 俺は、選択眼は達者なほうだと思っている。 俺の運び足位置をまねて登ってきていたんじゃないか? と思う。 

 雨が降っておるというのに湿気っているから、既に汗だくだ。 おまけに下は、レインウエアを履いておるから、上半身だけではなく、下半身もビチョビチョだ。 致し方ない。 

 登坂を越えたもうちょい先に開けた場所があった。 そこで、レインウエアの下は、脱ごう。 暑くてしゃーない。 こけて、泥まみれになったら、レインパンツで帰りゃいいさ。 レインパンツを脱ぎ、軽装になり、一気に頂上に抜けた。 

 頂上に辿り着くと、靄ってなーんも見えん。 ザ・フォッグじゃないけれど、数10メートル先が見えん! 展望台から、なーんも見えん景色に向かって、手を合わせるおじさんが居った。 「あぁ、そういうもんなんだ」 と納得した。 
 9時半前、おぉ順調じゃない。 さてと、とりあずは、一丁平まで向かうか、そこに行ってから、どうっすか決めるかな。 大まかな時間計算で、陣馬山まで抜けて、バスで高尾駅まで30分ほど掛かる。 それを考えると、高尾から自宅まで2時間ほど掛かるから、2時間半は見ておかんといかん。 それを考えるとだな、15時までには、下山フォーメーションに掛からなければいけない。 ここから先は、普通に登山道だ。 当たり前か。 

 リュックのレインカバーを外した。 一々カバーを外さないとドリンクが取れないのも面倒だし、曇っちゃいるけれど、雨は降らんと踏んでいる。 

 ザ・フォッグのお陰で、ちょい先が見えず、もやぁ〜っとした中から人が出てくるのが、ちょっと幻想的。 いつも、一丁平で飯を食って、昼寝して下山するのが慣わしだ。 一丁平通過は10時ちょい過ぎ、うーーん、飯を食うには、まだ早いな。 もうちょい先に行こう。 

 アップダウンを繰り返し、ダウンの一番低いところがグチョグチョになっている。 水の逃げ場所がそこになり、溜まっているのだろう。 ゴアテックスのシューズを履いておっても、トレッキングパンツの裾は、泥だらけになっている。 俺、歩き方上手くないから、汚すんだよなぁ。 グチョグチョベチャベチャで、気をつけないと靴が丸ごと埋まっちまう。 なるべく、端ギリギリを歩く。 俺のシューズは、ローカットだから、踝までカバーしていない。 ハイカットは高いんだよ、でも、山では絶対に必要だ。 下りで、バランスを崩して妙な角度に足が曲がっちまうとき、ハイカットだと、足首をカバーしてくれっからな。 ローカットは、自力でカバーせんといかん。 

 ここまで来ると、粗方というか、殆ど、陣馬山に抜けることを決めていた。 彼女にも 「高尾から、陣馬山に抜けてくるから」 と言っちまった手前、行かざるを得ない。 彼女に言うと、「何で、そんなこと考えるの? 行かないのなら行かなければいいじゃん」 と言われるが、そこはさぁ、言っちまったことは、やんなきゃなんねぇと、バカなカッコつけですよ。 それも、泥かるんで天気悪いのにさ。 

 チェックポイント、チェックポイントで、茶店があるんだけれど、この天気のせいか営業しておらん。 さほど、暑くないと踏んでおったのと、500のペット×2で間に合うと思っていた。 なければ、当然、間に合わせる。 のべつやたらに水ばっか飲んでんじゃないよ。 ちょっとした緊張感と、初めて入る込む登山道にちょっと緊張する。 

 登り終わった思うことは、山の醍醐味って、状況の変化への対応なんだと思う。 雨が降ったり、悪路を抜けたり、自分自身の体力を考えたりと、そーいった変化に対応してゆくことに楽しみを見出しているのだろう。 勿論、下山したから、楽しかったと言えるわけで、登っている最中で、疲れてくると、そんなことは、あまり考えない。 決まりごとがないと言うことに楽しみを感じているのかもしれない。 勿論、気を抜いたり、バカにしたりすると、山は手痛いしっぺ返しをする。 

 10時半を越えた辺りで、腹が減ってきた。 5時半には、朝飯を食ったから、間もなく6時間経過する。 エンプティになる前に食うもん食わなければいけないが、如何せんここ数日の雨のせいで、腰掛けられるとこは、みんな雨で濡れておる。 レインウエアの下を再び、履いて座って食うという方法もあった。 

 元茶屋だったと思われる屋根があり、辛うじて、濡れておらん丸太があり、そこでみんな、飯を食ったり、休憩していた。 ここは、そーいうポイントなのだろう、みんなに習い飯を食うことにした。 ゆっくり休みことは出来そうにないから、おにぎり2つだけ食い、先に進むことにした。 普通に食っちまうと、血液が胃に行ってだな、貧血起こしちまうからな。 再び、腹が減ったら、残りの魚肉ソーセージの登場である。 

 陣馬山への案内板を見ると、7キロは切っているようだ。 この7キロがどれ位で消化できるかは分からない。 平坦な道なら、1時間強だなと察しがつく、登山道は、各人の力量によって変わってくる。 少なくとも、2時間半あれば陣馬山まで着くんではないか? と思っている。 高尾山頂上からの案内では、5時間と書かれておった。 俺は、高尾山から陣馬山へのトータル5時間と踏んでおる。 

 相変わらず、靄っておって雲は切れない。 時々、雨を降らす。 とりあえず、荷物は濡らしたくはないので、ヤバイと思うと、再び、リュックにカバーをした。 山の隙間から見える景色が、いつも見る景色とは違い、景色をあまり気にせん俺でも、目に留める。 遠くに見える街並みがそう簡単に下山させてくれん高さを感じさせる。 山のある意味でよいところは、ある程度のとこまで来ちまったら、泣こうが喚こうが自分の足で降りるしかないのである。 デパートで、ガキを引っ張って連れてゆく要領で、降りることも出来ん。 そーいった意味で、自己責任だよな。 潔い。 

 登りに差し掛かると、使ったことがない筋肉を使い出している。 疲れてきたから代替の筋肉でも使っているのか? 今まで温存してきた秘密兵器でも出てきたか。 久々に沸点を越えてきている。 沸点越えは、どんなもんでも苦しいけれど、自分自身が新しいエリアに到達した証でもあると思う。 自分自身が変わりたいのであれば、普段と違うことをやり、沸点を越えることだと思っている。 沸点って、どこかって? 越えてみりゃ分かるし、みんな何度か越えているだろ? 

 荷物を背負い、疲れてくると、荷物が左右に揺れる。 身体を真っ直ぐに保つことが出来ないのだ。 疲れない身体=筋力だと思っている。 

 疲れてくると、残り○キロというのが気になってくる。 「まだかよ、さっきも残り3キロって書いてなかったっけ?」 悪態をついてみる。 残り、1キロになって俄然力がみなぎり、頂上に到達。 13時ちょい前に到着した。 思っていた以上に早く着いた。 早速茶屋で、冷たい500のお茶を買った。 頂上に着くも、バス停への行き方が分からないので、茶屋の店主に聞く。 
 
 「すいません、バス停には、どういう風に行ったらいいんですか?」 店主は、一人しか居らず、茶屋に客が数名入っておったので、忙しく接客をしている。 「どっち方面に行くの?」 「どっち方面?」 「あぁそっから分からないんだ」 ちょっと軽蔑気味に言われる。 「どっちから来ました、神奈川から、それとも高尾」 「高尾からです」 「本当は、トイレの脇の道を降りてゆくと近いんだけれど、泥るんで危ないから、来た道を戻って左手に陣馬高原バス停っていう看板が見えるから、そこから降りていって、13時25分にバスが出るから、今出れば間に合うから」 と言われる。 

 あんりゃ?、事前に調べた時刻表だと13時35分だと思ったけれど・・・とりあえずは、言われたとおりにすたこらさっさと、頂上を後にし、バス亭に向かう。 

 しかし、居り始めて、ここ数日の雨のため、道が削れており、結構な傾斜になっておって、25分じゃ着かん事をへっぴり腰で降りながら痛感する。 「茶屋の店主は、この道を25分で降りるのか?」 と思った。 だが、更に山を降り、国道に出てから、20分ほど歩くことになる。 結局、バス停に着いたのは、13時45分だった。 あの店主は、天狗か? この道のりは、飛ばなかったら25分で着かんよ。 

 バス停に着き、トイレで顔を洗い、シャツを取り替えながらそんなことを思った。 久しぶりにちゃんと山を登った気がした。 なんとも心地よい疲れであった。