大人の遠足 end

 ライヴが終了し、皆さん、足早に撤収してゆく。 普段だったら、翌日、仕事が控えておって、みんなで、軽く食えて、飲めるところに入り、ライヴを肴にあーでもねぇーこーでもねぇーとやる。 だが、ここは、大阪、明日のことは気にすることはねぇ。 とは、言っても、昼間、動き回ったのが効いて、疲れておった。
 いつの間にか後ろに移動したKが居って、撃沈気味だった。 「おい、大丈夫か?」 「あぁ駄目だな」 いつになく弱気な発言である。 
 「宿、取ってないんだろ? どうする、これから」 「とりあえず、どっかホテル探すわ」 「わかんねぇけど、うちらが泊まるとこに行って、割増料金払って、一緒に泊まれるか聞いてみよう」 この土壇場で、妙な方向に向かうというか、当初予定しておった方向に舵が切られ始めた。 昔っから、そーなんだけれど、みんなを集めようと思って、努力すっと、誰も彼も、無理で、何のこたぁない気ままな感覚で、召集すると、みんな集まるというのが傾向だ。 

 みんな、疲れて、眠かったんだじゃないのかな、俺は、間違いなく眠かった。 そんな、疲れ果てたおっさんを乗っけて、地下鉄はひた走る。 

 ホテルは、駅から直結だった。 駅を出て、横をみると、ホテルの入り口という寸法だ。 梅田の中心地から、ちょこっとズレたところにあるようだ。 ズレておっても、位置感覚は、さっぱわり分からんけれどな。 フロントに行き、バウチャーを渡し、「すいません、追加料金を支払って、もう一人、泊めてもらうことは出来ないでしょうか?」 駄目元で、頼んでみた。 パックツアーで申し込んでおるから、パックを崩す事が出来ないパターンが多い。 駄目だったら、ここで、ホテルを紹介してもらおうと思っていた。 「ちょっと待ってください」 パソコンで、チャカチャカやって確認し、「大丈夫で、3ベッドルームが空いておりますので、そちらのお部屋を用意できます」 「ありがとうございます、御願いします」 おぉ、すんなりいった! 「追加料金は、こちらになります」 っと、そっと出された金額は! 「3150円!」 安! 最低でも5000円は取られると思っていたから、とってもリーズナブル。 

 キーは、カードキーじゃなく、昔ながらの部屋番号がチェーンで繋がった鍵。 部屋は、久々のアッパー階さ。 海外では、安いとこに泊まるか、安く上げるかしているから、アッパー階は滅多に泊まれん。 おふくろと一緒に行ったNYのアップグレードキャンペーンに当たって、シェラトンだったかな、あそこが上層階だった。 高い部屋は、騒音も少なく快適なんだよ。 唯一の難点は、朝食の時間や、チェックアウトの時間にELVがちょー混んで、乗れないことがあるってことかな。 
 昭和の匂いがするホテルだ。 ちょっと、NYの古めのホテルっぽくて、個人的には気に入った。 備え付けの冷蔵庫があり、中は空っぽ。 高いドリンクが、ここぞとばかりに詰まっている冷蔵庫はいかんね。 ビールなんぞ入っておると、Kの餌食になるところだ。 

 雰囲気的には、四畳半に2ベッド+エクストラベッド=3という感じである。 辛うじて、人が通れる程度しか隙間はないが、悪くはない。 「悪いが、Kはエクストラベッドな」 と、有無も言わさずに決定。 「あら、これうちにあるのと同じじゃないか?」 と、エクストラベッドを見て、Kが言う。 運命のベッドだな。 

 外の眺めは既に寝静まった街になっておる。 大阪は、閉まるのが早いとは、聞いておったが、こんなにまで、早いのか? ホテル周辺ってさ、駅周辺ってことでしょ? それで、この静けさか。 俺んちの周辺だって、もう少し、店がやっておるぞ。 荷物を置き、「どうする? 飯でも食いにゆく?」 眠くても、疲れておっても、飯は食わねばならん。 
 ホテルのカウンターで、周辺の店を聞いてみたが、やはり、22時半には、大半が閉まってしまうらしい、開いておる店を数えたほうが早い。 むさい男三人衆、街に放たれる。 
 ここでも、再び、何がいい、あれがいいと、始まる。 Kは、たこ焼きだ、串焼きだと、名物を言っておった。 俺自身は、みんな疲れってから、飯食って即効撤収なんじゃない? と、思っておった。 のらりくらいしながら、寂れた居酒屋に着陸した。 マジに数えるくらいしか、開いておらんかった。 

 眠い眠いと言っておったから、居酒屋には、入るまいと思っておった。 俺は、おにぎりにおかずを適当に頼んだ。 「最近、どーなんだ?」 っと、Kに伺いを立ててみる。 生活実態が、掴み取りづらいだけに何をやっているのか、心配というよりも、具体的に分かったほうが、安心しやすいと思うわけだ。 「そっちは、どーなんだ?」 「俺は、同じことの繰り返しだけれど、それなりに忙しい」 
 「又、悪い癖が出てきたんだ」 と、K。 「何が?」 Kに曰く、極度の潔癖症が出てきて、どーしようもない、部屋の中をきれいにに片付けておかんと、駄目らしい。 俺は、「いいんじゃないの」 と、答えた。 時々、Hと話題になるが、Kの部屋はいつでも、きれいに掃除が行き届き、頻繁に模様替えがされるというのが定番だった。 

 俺は、日々、同じ生活を繰り返して、無難にこなしてゆくことをよしとしている人なのだ。 下手に起伏を与えるよりかは、日々を無難に忙しく過ごした方が良いと思っている。 忙しいというか、やる事が詰まっているといったほうがいい。 よく書くけれど、泊まり仕事が終了し、夕飯の買いもんや、用事ごとを済ませ、家に帰ってきて、もって返ってきた弁当箱をつけて、洗濯したり、掃除したりして、仮眠を2時間ほど取って、ランニングに出て、夕飯を作って、食って、片付けて、翌日の弁当を作って、冷蔵庫に入れ、翌日の準備をして、本を読んだり、打ったり、録画したもんを見たりして過ごすと、あっ! っという間に23時になる。 俺は、基本的にやらなければならんことは、必ず、片付けるようにしている。 やらんと、翌日に持ち越すことになり、面倒になる。 服を脱いだら、ハンガーに掛けるし、洗濯もんは、洗濯もん入れに入れる。 脱ぎっぱなしにしたもんは、二度と動かん。 だからといって、この生活から抜け出ないことをしているわけではなく、規則正しい生活をしておらんと、次の目標に向かう事が出来んという考え方である。 だから、Kの日々おなじ生活のジレンマというもんには、ならんのだ。 だが、常に脱却を狙っているという点では、一緒かな。

 そして、Kがよく言葉にすることで、「俺と、ミロヒは、一緒なんだ、学歴もなく負け組みなんだ」 俺も確かにそーいうことを考えておったことはある。 自分自身で、選んで道な訳で、しゃーないのだ。 獣道から、どーにかして、国道に出れんもんかなぁっと、模索もした。 でもさぁ、結局、自分自身の得意分野で勝負するほうが良いんだよ。 それが無難であるとか、流行とか? そーいったもんで、チョイスしてもしようがないと思っている。 自分の得意としていることを広げてゆく方が楽だし、何事も順調に物事が運ぶことは嬉しいのだ。 勉強が出来ん子供は、やり方が判らんことが一番のネックだ。 こいつを時間をかけても解消してやるが先決だと思う。 やり方を理解してしまえば、あとは、なんでも一緒だ。 
 こないだ読んだ本の中にこんなことが書いておった。 「現代教育が駄目なわけが分かるかね? 今の教育は、一刻も早く仕事が出来るようにするための教育なんだ」 この言葉を見て、「なーるほど」 と、思った。 この大きくなった世界を背負ってゆくためには、確実な働き手が必要なのだ。 だから、学生生活が終了したら、一刻も早く働けるようなシステムになっているんだ。 
 俺は、そーいったもんから外れたから、独学で、取得しなければならんかった。 大切なことは、理解力と、それを組み立てる力と、我慢し、努力することだと思う。 自分自身の中で、プランニングしたもんは、誰にも文句は、つけられない、唯一、文句を言えるのは、本人のみである。 上司がおって、いつまでにやりなさいとは言われていないのだ。 自分の気の向くまま、やりゃいい。 だが、必ず、やり遂げなければならない。 これが、唯一のルールかな。 ここに長々と書かれておることは、あの晩、俺が言いたかったことを文章にしてみた。 俺にしても、Kにしても、問題は、勝負の仕方ってことだと思う。 自分の戦いやすい場所で、アイテムで、やりゃいいんじゃないのかな。 それには、どっかで無理もしなきゃならんだろうし、努力しもしなければいかんし、我慢もしなければいかんと思う。 

 そして、何よりも驚いたことは、Kがちゃんと、このブログ、サイトを読んでおったということだ。 「あそこに出てくる友人Kと、悪友Kは違うんだろ? 悪友は俺だな、トムちんはいいな」 ここら辺のことは、しっかりと読んでおらんかったら、判らんことだ。 おっさんの長い夜は、ホテルに戻り、就寝についた。




 筈だったが、寝静まった夜に 「あぁー! 止まんねぇーよ!!」 Kの寝言である。 これは、明らかに寝ながらにして、荷物をどっかに運んでおり、トラックが止まらなくなったのであろう。 「いて! いてててて!!!」 これは、足が攣ったらしい。 「б#Щ£ーーー£!!!」 日本語になっておらんのもあった。 んな、寝言が定期的に出てきて、あたしゃ、寝れませんでしたよ。