毎年恒例の高尾山

 昨日、毎年恒例の高尾山のレースに出た。 オンシーズンのスタートは、このレースと決めている。 これを足掛かりにレースを組んでゆく。 レース自体を2年近く出ていないから、きついレースになることは想像できるのだが、どんなレースであっても苦しいことに変わりはない。 今年は、レースのスタートしての意味合いだけではなかった。

 練習はしておったけれど、思っていた量はこなせておらんかった。 いつものことだといえば、いつものことなのだが、一緒に住むようになって、生活のサイクルが微妙に変わっているから、その隙を縫って練習を重ねておった。 仕事もそこそこ忙しく、大変だといえば大変だ。 まぁ、マラソンでも、野球でも、サッカーでも、仕事をしながらやっている連中は、俺と同じように隙を作って練習しているのであろう。 贅沢を言ってもしようがない、出来る限り練習をやるだけである。 

 練習が思ったように積みあがっておらんと、不安だけは大きくなる。 ちゃんと完走出来るんだろうか? というヤツだ。 練習が足りておらんと、太腿が攣ったり、膝が痛くなったりと形となって現れる訳だ。 練習のときは、無理なんぞせんから、そーいったもんは出ない、レースになると、相手があるもんだから、どっかで無理をするんだな、結果、怪我をしたり、故障をしたりする。 

 高尾山は、それほど遠くもなく、まだ寒い時期でもなく、スタートが昼からだということもあり、応援に来てくれる。 応援されると、なるべく早く帰ってこようと思う。 

 よい天気である、湿気もなく快晴!! レース日和だ。 今年は、コースが若干変わっているようだ。 例年、私立高校のグラウンドからスタートして、山道に入ってゆくというコースなのだが、今年から山を登る前の中学校が集合場所になっておる。 まず、山に向かって走り出し、それから山道に入るという流れになっておると思われ。 坂の途中からスタートするんじゃないかと思っている。 ロケットスタートだ! いきなり、坂から走り出し、山に抜けてゆくという一番嫌なパターンである。 いつものように横で、彼女がカメラを構え、俺のスタートの表情を撮っておる。 スタートラインが狭いから真横から写している。 にこやかに手を振っておるが、「あぁまた苦しいのか」 と自分から申し込んでおるくせに腹の中では思っているのである。 後ろからは、「なんだよ、坂からのスタートかよ、やる気なくすぜ」 と聴こえる。 分かるよ、分かる、でも、走らなきゃなんねぇーんだ。 

 このところ、靴に四苦八苦しておる。 自分に合ったシューズを見失っておる。 帯に短し、襷に流し、大きすぎたり、幅が広すぎたりしておる。 自分自身が思っているよりも足の幅が狭く、長さが短いのかもしれない。 縮んだか? 練習で履いておったシューズが、ちょっとばかり大きすぎて踵がずれるから、買い換えたんだ。 結果、初心者用シューズになってしまった!! サイズの関係だったんだけれどな。 安売りから選んだから、それしか選べんかったのだ。 

 そんな感じで、走り出した。 300メートルくらいアスファルトの坂を登り、左手に折れ山道に入ってゆく。 登坂を一斉に登り始めた。 のもつかの間、渋滞に捕まり、歩いて登ってゆくことになる。 

 そして、下りを数キロ下がり、登り、この登りの頃には、へばったおった。 練習不足覿面だな、致し方ない。 後半に下りが待っているから、それに向けて力を温存し、走った。 緩やかな下りを走っておったら、左太腿裏が攣りそうになってきた!! ヤバイと思い、落ち着くまで止まって待った。 ここで、太腿が攣ってしまったら、走れないだろ? 何とか調子を取り戻し、再び走り始める。 

 残り、4キロになり、今度は、右の脹脛が攣りそうになった。 これ又、止まって 「大丈夫、大丈夫、まだ走れるだろ?」 と足にお伺いを立てる。 そして、ラスト1キロになり、スパートをかけた!! 攣りそうになっているのに何故にスパートをかける? そして、500メートル手前で、両足脹脛が攣りそうになる!! 最後の悪足掻きで抜かしたランナーに抜かされながら、足の調子が戻るのを待つ。 このまま、戻らんかったら、歩いてゴールするのか? カッコ悪いだろ。 

 ゆっくり走り出す、ちょっとバランスを崩すと、攣りそうになる。 よし、頑張れ頑張れ、あとちょっとだ、下りきり、コーナーを回るとゴールが見えた。 よし、スパートと思ったら、俺の前をじいちゃんが走っておる。 抜かすだけの力はあったけれど、ここで抜かすと、大ブーイングが起きそうだ。 じいちゃんがゴールしてから、入った。 

 ゴール左手にカメラを構えた彼女が居った。 ニコニコしながらカメラを構えておる。 彼女に抱きつき、「ごめん、遅くなっちまった、まいったよ、あと500メートルでさ、足攣りそうになっちゃって」 こりゃ、ケツから数えたほうが早いくらいの記録だな、まぁいいか。 俺には、他に目的があった。 

 ゴールラインを少し越えた所で立ち止まり、俺は 「結婚してください」 と言った。  少し、驚いたような表情をして 「はい」 と答えた。 良かった、良かった、断られたらどーしようかと思った。 今回は、このために走ったのだ。 俺たち、結婚します。