Henro walker 5月15日

 同行しているスポーティーなおじさんは、行程を粗方判っておったようで、どれ位で、到着するか目算を立てていたようだが、俺は、「あと少し」 「もうちょっと」 と希望的な見解ばっかだった。 実際、ここからまだ、2時間ほど歩かされることになるのだ。 

 弘法大師の前で、休憩をしておると、抜かした人たちが続々と、チキチキマシーン猛レース如くゴールしてくる。 思っている以上に差は付いておらんということだ。 俺たちは、先行しておる分、先に歩き始めた。 景色は、さっぱり見えず、鬱蒼とする木々と、「苦しさは、一時もの」 とか 「お大師様の通られた道」 とか 「がんばって、さあ前進」 など、書かれておるんだ。 半笑いで、引きつった顔で、励まされながら進む。 「進んでいればぁ、いつかは終わる、いつかは終わる」 念仏のようにブツブツ言う。 これは、マラソンのレースのときに呟くんだ。 「進んでいればぁ、いつかは終わる、いつかは終わる」 不安定な足元のせいか、足が靴の中で踊っている。 やっぱ、ジャストフィットじゃねぇと駄目か、次回買うときは、ちゃーんと店員さんにアドバイス受けて買うんだ。 相変わらず、ソールは、地面を噛んでくれんから、踏ん張るに踏ん張れない。 

 ちょっと開けたとこに出た。 なんだぁ? 人が居るな、休憩場所か? そんな訳ないな。 開けた場所に登り切ったら、人が立っていた。 お遍路さんの恰好なんだけれど、休憩するでなく、立っているんだ。 180センチくらいあるガッチリした若者だ。 これだけ、上づえがあれば楽だろうなぁっと思った。 でも、大きいヤツに言わせると、小さいヤツの方がコンパクトで、余計なエネルギーを使わんでいいと思っているようだけれど、まぁ長所短所あるよな。 「こんにちは」 「こんにちは」 と、挨拶を交わすも、それ以上に会話は発展しなかった。 無愛想だなぁっと、思いながら先を急いだ。 

 まぁ、色んな人が居るからな、フレンドリーな人も居るし、自分の世界に入り込む人も居るだろう。 俺も、どちらかといえば、一人で、進むほうだが、結構、流れに任せる。 頑なに一人なんだ! というタイプではない。 

 1時間ほど歩き、平らな丸太で作った椅子が設置してある場所に出た。 地図に記載されておらんが休憩場所である。 俺は、4時間半ほど歩き続けている。 腹が減ってきた。 エンプティになって、更に歩き続けると、ダメージが大きくなることを理解しておったから、どっかで飯を食いたいなぁっと思っていたが、おじさんは、そんな感じではなかった。 ここまで、一緒登って、離脱するのは、嫌だったから、我慢しよう。 
 5分ほどして、先ほどの無愛想な若者がやってきた。 俺の隣にある丸太の椅子に座った。 さて、どうするか、話しかけるか。 パッと見、一番目だったのが、荷物の量だった。 すげぇな、何故にこんなに荷物が大きい? 「凄い、荷物の量ですね」 「これでも、減らしたんですけど、野宿で周っているもんで」 出たぁ、野宿! 「どれくらいあるんです?」 「12キロです、重くって」 そりゃ重いだろ。 高が2キロ思うかもしれないが、この期に及んで、ミネラルウォーター1本分増えるのは、つらいよ。 
 「いやぁ、昨日の夜から、何も食っていないんですよ」 「ハァ?何で」 「藤井寺のとこに食べものを売っている場所があるって書いてあったので、期待してきたら、売ってなかったんですよ、ここまで来て、戻る気もなかったら、まぁ良いかって」 空きっ腹で、ここまで登ったか、大したもんだ。 しかし、予備に何か持っていなかったのかねぇ。 

 そーいえば、チョコがあったんだよ。 バターピーを買ったときにチョコも買って、食わずに持っておったのを思い出した。 「足しになるか判らんけど、チョコあるから、あげるよ」 「そんな、貴重なエネルギー」 「いや、他にも食いもんあるから」 俺には、宿でもらったおにぎりがある。 カロリーメイトと迷ったんだけれど、この場合、腹に効くのは、チョコなんだよ。 エンプティーになっていて、身体に染み渡るように効くのは、甘いもんなんだ。 「ありがとうございます」 他愛無いことだけれど、こんなことで感謝されると、嬉しい。 彼とは、最終日まで、どこぞでどこで、会うことになる。