ローン・レンジャー

 職場に借金持ちが居る。まぁ、どこの職場にも借金持ちは居る。家を買って、ローンを組めば、立派な借金持ちだ。事業に失敗し、借金を抱えてしまうというのもある。こーいう方々は、正当な借金持ちだ。これとは別に借金をこさえる必要がないのにこさえる輩が居る。得てして、博打、女、酒の三番柱のうち、どれか一つに入れ込んでおる、又は、三本柱全部というヤツも居る。彼は、女に入れあげておるというか、過去に街中で出会った、一時流行ったちょい奇麗なお姉ちゃんが、訳ありげで引っ掛け、マンションの一室に連れ込み、あれよあれよと壺を買わされたり、違うお姉ちゃんに絵を買わされたり、風俗のねえちゃんに金を貸しちゃったり、当然戻ってこず、今は、家に行ったこともない、自称付き合っているという風俗のお姉ちゃんの娘にランドセルを買ってあげたり、金を貢いだりしておる。まぁ、風俗嬢を蔑視する訳ではないが、その手の商売をやっておる方々は、色々と訳があったり、生い立ちが複雑だったりするのだ。水商売が長かっただけにそこら辺のことは、よー分るんだよ。
 金が必要で、この商売をやっておって、目的がある人は、長居せずに抜けて行く。長く居つくのは、それなーりに訳があるのだ。

 自称付き合っているのに従弟と同居しているからと家に招かれたことはなく、いつの間に引っ越し、(家に近寄らせないのだから、引っ越して住所を教える必要があるかどうか分からない)でも、まだ繋がりはあるようで、当然、今の家にも招かれない。子供の入学式だといっちゃ50万円せがまれ、会うと金をせびられるようだ。それでも、付き合っていると言うところが訳が分からん。周りから、何を言っても聞く耳を持たない。その女が男と一緒に歩いているのを見て、詰め寄っても「この人が、私の一緒に住んでいる従弟なの」と言われりゃ、信じるんだろうなぁ、世の中には、訳の分からん壺売りや、客で行った風俗の姉ちゃんに金を貸し、自分の子供でもねえのにランドセルを買ってやるバカが居るのだ。

 結局、総額300万円ほどの借金になり、これだけなら、「頑張って、働いて返しや」と言って終わるとこだが、こんなバカちんなのに家のローンを支払っておるのだ。二十歳の時に母ちゃんが家を買い、そのローンの返済をせっせこやっている。そんな右も左のも分からん頃に借金を背負わせてしまうのも何だなとは思うが、それが月々10万円弱ある。10年ほど、せっせこせっせこ支払い続けておったら、母ちゃんが死んでしまった。母ちゃん存命の時は、10万円のローンを支払い、小遣いとして4万円をもらいこまこま生活しておった。それでも、壺は買わされておったらしいけれどな。母ちゃんが死んで、生活弾けてしまったのだ。

 当時の職場の上司も、そーいう気質は、見抜いておって気を付けておった。その術として、身の丈以上に金を稼がせず、暇を与えずという仕事のさせ方をしていた。如何せん、そーいう気質であってもだ、法律的には、大人だから、ヘルスに行ったり、道楽に好きなだけ金を使ったりするのだ。そして、勝手に好きになったお姉ちゃんに金を貢ぎ、あれよあれよと300万円なのだ。この金額でも既に140万円位は返済しているのかな。返済しているのにぃ増やしちゃっているという。

 さすがにこれだけの返済を月々やっておったら、満足に給料をもらっておらん俺たちのような輩は、首が回らなくなるだろ。こんな生活をしておって、毎月滞納をしておるのにだよ「大丈夫です、返せます」という神経がポジティブなのか、バカなの判断に迷うところだ。こんなバカ珍だから、返済が詰まってくると仕事に支障が出てくる、女と会うことが決まっておるとソワソワするのだよ。仕事に身が入らないからミスをする。俺たちもこんなにまで借金が溜まっているわ、滞っているとは思わんかった。仕事中のソワソワから、問い詰めたら、それが発覚したという訳だ。この手の輩は、嘘をつくから質が悪い。正直に言ってくれれば、しゃーないから対応をする訳である。嘘をつかれると、そのたんび対応の変更を余儀なくされるのだ。

 そんな訳で、俺の職場での仕事の一つとして、バカ珍の借金の管理というのが付け加わった。金にもなんねぇのに何故にそんなことをすることになったのか?金の管理に俺が長けておったということもある。元々俺も、金の管理なんぞこれっぱかしも出来んかったけれど、NYに行って以降、家計簿をつける癖がついた。長期間滞在すると、金のことが一番気掛かりになる。海外に渡るためには金が要るから、貯金をする術をつけた。そして、俺が決定的に金の管理に長けたのは、おふくろが入院した時だ。それでもあの頃の金の動きは、未だに思い出せない。それ位ひっ迫していた。みんなからのお見舞金が助けになったことは言うまでもない。それがなかったら金の捻出は出来んかったであろう。そのお陰で、俺自身も余計な勉強をしなければならず、借金の返済計画、借金の利子の計算式にも長けるようになった。

 今は、Excelを使って、家計簿をつけているから、楽だよね。入力して管理するだけだ。バカ珍の借金の管理もExcelを使って管理している。かみさんが食費の管理をしているんだけれど、俺の家計簿を見て、「私は、そこまで細かくは出来ないから食費の管理は出来ない」と言ってきた。これは、俺がやっていることで、かみさんは、好きにやればいいと答えた。当然、それで良いのだから。かみさん曰く「あなたは気づいていていないけれど、数字に強い筈よ」と言われた。俺自身は、数に関することは苦手だし、大嫌いだ。でも、答えが明確に出る数字というものは、楽で良いし、気持ちが良いとは思う。俺の計算式通りにやれば、借金の返済は出来るのに欲望に負けて金を使ってしまうんだよねぇ、こーいう計算通りに行かんことの方が厄介だ。

 海外に行くでなし、大金が掛かる趣味があるでなし、相変わらず、趣味で、こっそりCDを収集し(思いっきりばれているけれど)本を読む生活だ。金は、かみさんの為に残しておるようなもんだ。俺の方が先に行く、ささやかな餞別かな。