Henro walker 5月16日

 休憩も取らずに杖を突きながら歩き続ける。 うねうねくねり、蛇行した道は、先が見えず、どれ位歩きゃいいかよー判らん。 一つ判ることは、歩き続ければ、目的地に到着するということだ。 

 そんな調子で、時間は昼時になっていた。 6時半に飯を食い、歩き続けると、やっぱ腹が減る。 こっちに来て、身体動かしているし、食いもんは旨いし、腹のほうも、「いつ、旨いもんを食わせてくれるんだい?」 と言っておる。 
 リュックから、水を取り出し飲みがてら、地図を引っ張り出す。 そろそろ目的地が近いはずなんだけれどなぁっと、思いながら広げる。 この地図、地球の歩き方と同じで、情報が古いところがある。 まぁ70%くらいで、信用しておけば間違いない。 「地球の歩き方」 に関しちゃ、ネットや、国際電話がバカっ高い頃だったから、情報としての重要度が高かったにも関わらず、情報が古かった。 そりゃそうだよな、早くて年に1度しか出ないのだから、その情報を頼りに動くのだ。 ある旅行者が言っておったが 「地球の歩き方を後生大事に聖書のように持ち歩いている」 と。 

 ここは、日本だから、判らなくなったら聞きゃいい。 

 地図を引っ張り出し、どこら辺まで進んでおるかを確認する。 道を追っても判らないので、バス停や、目印のコンビニで判断するのだ。 「大日寺まで、そろそろの筈なんだけれど、さっきのバス停の名前を見てくる」 と言い、道を戻ってゆく。 彼女も足を止め、俺の方を見ている、やっと、止まってくれたか。 小学校があったから、多分、入田東(にゅうたひがし)だと思うんだけれどな、でも、地図に載っているコンビニはサンクスだよなぁ、でもあるのは、セブンイレブンか。 

 バス停まで歩いて戻ると、入田東だった。 あと1キロちょいくらいで到着すると思われる。 待て居る場所に戻ると、彼女は座っておった。 当然だよな。 地図を指し示しながら 「今、ここら辺だから、もうちょいで大日寺着くよ」 「12時過ぎちゃいましたね」 「でも、思っていたよりも、はるかに順調に来たと思う、もっと掛かるかと思った」 

 再び、歩き続ける。 「しかし、よく歩いたね」 ただ、頷くだけである。 まぁ5時間以上は歩いているのだ、そーなるわな。 俺自身は、ちゅーと疲れてはいない。 当たり前なんだけれど、このあと、まだ歩き続け、次の宿に辿り着かなければならないのである。 

 今まで、何もなかったのに突然、開けてきた。 左手に何かがあるから覗き込んでみたら食堂だ。 食堂があるっちゅーことは、大日寺は近いな。 人も居らんとこに店はない。 彼女の表情も気のせいかほころんだ気がする。 右手に寺が見えてきた! 「大日寺じゃない?」 と指し示す。 さすがにやっと、笑顔に変わった。 これで、俺の肩の荷も下りるってもんだ。 

 階段に登ってゆくと、「観音寺」 と書かれておる。 あれ? 間違えた? っと、思ったら 「こっちこっち」 と声が聞こえる。 振り返ると、宿で一緒だった男性が座り込んでいた。 「こっちが大日寺で、隣は違うお寺みたい」 地図で確認すると、4つ寺が混在しておる!! この中で、お遍路に関係しておるのは、大日寺だけで、他は関係ない。 

 とりあえず、着いたんだから、お参りをしなければいかん。 

 俺はっちゅーと、いつものように線香を上げ、お賽銭をチャ〜リンと入れ「神様、見ててくれたか? ちょっとばっか良いことしたぞ」 と報告。 彼女は、しっかりと朱印帳を片手に印をもらいにゆく。 座れるとこを見付け、ちょっと満悦気味な俺。 普段、これだけ一生懸命人に関わらんて、逆に避けているような人だからね。 何にしても無事到着して良かった。 

 満面の笑顔で、やってくる。 おぉーさっきまでは無反応だったのに! 「朱印帳もらってきた?」 「うん!」 大事そうに朱印帳を持っている。 「メールアドレス、もしよろしかった、教えてもらえますか?」 そうだろう、そうだろうとも、一緒に歩いたんだからなぁっと、ちょっと思った。 俺自身も、アドレス聞こうか、どうしようか迷っていたから、嬉しかった。 「ええ、交換しましょう」 

 お互い、ガラ携だということを知る。 赤外線転送をやろうと思うも、お互い上手くゆかず、辛うじて彼女にアドレスを転送できるも、俺のほうには上手く転送されんかった。 これが又、あとでちょっとした展開がある。 

 その後、先ほどの男性、そして、もう1名一緒だった女性が合流し、飯を食うことになる。 そこで、一緒に飯を食っていた男性が 「何だか、何故お遍路をやっているのか判らなくなってきちゃって」 と、爆弾発言!! 聞いた話で、すべての行程を歩くつもりでいたのに一部バスを利用したことを悔やみ、それが引っかかりになってしまった人が居ったらしい。 判らんでもない。 確かにすべてを歩くことで、達成感もあるかもしれないけれど、自分自身のやったことを許すべきだと思う。 これは、そーいう旅なんだ。 

 確かに自分自身に課したルールはあるだろうが、それがすべてではない。 彼に向けて 「続けたほうが良いよ」 とは、言えない。 人それぞれ理由があるだろうから。 

 彼女は、そこからタクシーを拾い、徳島に帰って行った。 何となく寂しいような、ほっとしたような。 俺は、旅を続けにゃならん、次の寺へと向かった。