Henro walker 5月14日

 上り口の所まで戻り、次の道順が怪しい。 早速、買った地図を引っ張り出してみるも、見慣れておらんせいか、よー判らん。 こーいう場合、人に聞くのが一番である。 

 今日、行く先々で、会う黒いTシャツにジーンズにデイバッグ、なぜかコンビニ袋という出で立ちは、お遍路には見えんが、寺で何度も会うってことは、お遍路しかあるめい。 「すいません、藤井寺って、直進ですか?」 「はい、そうです」 そのまま、彼の進む方向に同調する。 

 次の藤井寺までは、10キロの長丁場になる。 これから徐々に距離を伸ばされ、歩くことに慣らされて行く。 普段着だったから、とりあえず、確認する 「歩き遍路の方ですか?」 「全部歩いている訳じゃないんです」  
 お遍路の醍醐味は、同行する人と、話し、目的地まで、一緒に行くというのが良いのだということに気がつく。 この旅の計画段階のイメージは、黙々と一人歩く・・・というイメージしか持っておらんかった。 叉、暗黙の了解で、お互い名無しなんだよ。 名乗ることはしない。 お遍路に来るってことは、理由がある訳だから、お互い、当たり障りない会話に修辞するのだ。 

 「全部歩いている訳じゃないって?」 「バス、電車で周っているんです 交通が発達していないから、行けるところもあるし、行けないところもあるんです」 なるほど、聞くと、藤井寺までの道中は、どーしても交通網がなく、歩くしか術がないらしい。 

 仕事はシステムエンジニアで、ずーーっと休みがなく、使っておらん30日の有給を使わせてくれんのなら、辞める! と、脅したらしい。 有給取れたのはいいけれど、さて、何しよう? ということになり、お遍路でも行ってみるかっと、思ったらしい。 予定では、20日の行程で、周りきるらしい。 
 このバス電車というのは、思っているほど楽ではなく、東京だったら、目的地まで着き、そこから路線を調べ、乗り換えて次の目的地に向かうことが出来るが、徳島そういう訳にいかんらしい。 一つの目的地に向かい、周辺の寺へ歩きで行けるのなら周り、無理なら、出発地の徳島に戻ってきて、再び、目的地方面のバス若しくは、電車に乗ることになる。 まぁ、それを日に3回やったら疲れるわな。 
 藤井寺までの10キロを一人で歩くのもつらいなぁっと、思っていたとこに俺が声を掛けたというわけである。 俺は、まだ、この時点で、藤井寺を周るか考えておった。 押さえた宿が、鴨島という駅で、藤井寺とは逆方向なのだ。 そっちに向かうと、無駄に5キロ歩くことになる。 本当は、藤井寺の近くの宿にしようと思っていたのだが、電話が繋がらず、駅の近くになったのだ。 

 座り仕事のシステムエンジニア、333段は辛くなかったかと聞いたら、「既に尻の筋肉がプルプルしている、このあと、10キロ歩くと、明日が心配だ」 と申していた。 しかし、思い切ったことをしたなぁ、俺のようにある程度、身体を動かしておるもんがやるんだったら、理解出来るが、普段、身体を動かさんもんが、やろう! と思い立った理由は? 
 まぁ、何か突き動かされるもんがあったのだろう。 そこら辺は、お約束で、聞かんのだ。 

 今日の行程は、吉野川を渡るんだったよなという程度にしか思っておらんかった。 その吉野川に潜水橋と呼ばれるもんが掛かっておる。 それが何か知らんかった。 如何せん、地図が縦横10cm×3cmのもんしか手元になく、橋が架かっておると書かれておっても、どんな橋なのか見当もつかん。 
 見ると 「あぁ、これか」 と思うもんだ。 川に水面上にギリギリのとこから掛かっておる。 時代劇にも登場する橋だ。 手摺が付いておらんから、ちょっと怖い。 手摺がない橋っちゅーのが、こんなに人を不安のするのか? と思った。 水は、殆どなく、草っぱが茂っておった。 雨の季節になると、そこそこの水位まで上がるんだろう。
 そんな不安感満載の橋を渡っておったら、対抗側から車がやってくるんさ。 「おいおい、ここ車通るのかよ」 二人揃って、同じ意見だった。 俺たち、手摺のない橋の端による。 もちろん、そー簡単に落ちるわけじゃないのに怖い。 尚且つ、車が徐行もせんと、普通の勢いでやってきやがる!! 
 「これが、普通なんだね」 と、システムエンジニアの彼が呟く。