抜かされたって良いじゃない だって人間だもの その3

 さてさて、どこら辺で、太腿パンパンになっちゃうのかなぁ、普段、登坂を走っておれば、そんなことも思わんかもしれないが、平地をぐるぐる周っておるだけだからな、ちょいと勝手が違う。 
 前回に比べ、300人くらい多いんではないか? と、思っている。 ってことは、どこかで、渋滞が発生する。 これだけの人数が走っておるのだ、全員、滞ることなく走り抜けることが条件である。 あれだ、高速の渋滞と一緒、誰かが急ブレーキを踏むと、そこから渋滞が発生するわけだ。 

 一気に失速し、人が二人やっとこさ通れる山道は、渋滞した。 焦ってもしようがなく、この渋滞が解消し、動き出すまで待つしかない。 2キロを約30ぷ掛けて抜けることになった。 どこにでも居るもんで、ちょこまかちょこまかしながら先へ進もうとする輩が居る。 そこまでレースに固着するのなら、前を走れ。 

 動き出すと登坂が待っておる。 身体を前へ前へ出せ! 体重は常に前だ! そう、自分自身に言い聞かせながら走る。 ここ数ヶ月の練習で、取得したのは、後ろに体重が掛かったら、スピードが出ないということ。 だから、上半身を前へ出す。 但し、これには、腹筋が物凄く必要である。 前へ出すのにも限度があり、そのポジションを如何に長く保てるか? ということだ。 上半身の重みを感じずに走るためには、後ろではなく前だ。 ここ数年、楽に走るフォームを覚えちまって、後ろに下がってしまった。 これだと、楽だけれど、早く走れないのと、身体を痛めるのだ。 腰、背中、膝のどれかがやられる。 

 だから、今回のレースの目標は、上半身を前へ!! 

 実際、上半身を前へ倒して走ると、楽なのだ。 身体は、自然と前へ前へと進む。 本当は、平地のレースで試してみたかったんだけれど、しかたあんめい、走ってみるしかない。 疲れておらんから、順調に山を上がってゆく。 草臥れたシューズだから、斜面を上手く噛んでくれんから、ちょっと滑る。 気をつけながら上がる。 ソールも緩く、ぶれる。 只でさえ、道がフラットじゃない分、必死こいて、バランスを保っている。 そーいや、石川弘樹選手が言っておったな 「トレイルは、バランス感覚が必要です」 って。 

 楽だとは言ってもだ、所詮登坂、つらいんですよ。 いつも練習で山を走っておる訳じゃない。 精々街中にある坂をホイサッサと登るくらいのもんですよ。 それでも、走り出して速攻、根を上げるわけにもいかず、走るのである。 狭い山道だと、上下に頻繁に目線を送っている。 前のランナーの動きと、足場がどうなっておるかを見ている。 前のランナーがこけるかもしれないし、顔の高さに枝があるかもしれないし、足元は足元で、木の根があるかもしれないし、穴が開いているかもしれない。 前のランナーと同じラインを進むとは限らない。 右手の木の根を進むなら、左手の岩場を進もうとかする訳だ。 結構、忙しい。

 息が上がり始めて、そろそろヤバイかなって時に下りが出てきた。 確か、上りで、下りで、フラットで、下りじゃなかったっけ? 上りが3キロほど続き、下りが3キロほど続き、折り返して上り。 上りの方がキツイと思うでしょ? 本当にキツイのは、下りなんですよ。 

 この下りで、ラップを稼いでおかんと、折り返しての上りは、グダグダになることが分かっておった。 だって、練習量足りておらんのに上りの3キロ耐えられないってばさ。 

 体重を前へ掛け、軽快に下ってゆく。 前へ体重を掛けるっちゅーことは、スピードが出るっちゅーことだ。 ガンガン抜いてゆく。 段差や、急カーブの砂利に注意しながら下ってゆく。 「こりゃ、調子良いんじゃね」 と、走りながらほくそ笑んでおった。 危険だ! 

 走れぇ走れぇここで、ラップ稼がんかったら、いつ稼ぐんねん! と思いながら走っておった。 反対側の上りをトップのランナーが走り抜けている。 軽快である。 上りをあんだけ走れれば、良いなぁ、俺は、ちゃんと上れるかどうかさえ、怪しい!! 

 へたり気味で、下りを終了し、折り返しの上りに向かう。 ここからが本番である。 

 下りは、キツイのだが、惰性で走れるところがある。 だが、上りは、走っているという意識が働く。 砂利道をせっせこ上ってゆく、こいつを走らにゃゴールには辿り着けんわけで、しゃーないのだ。 「たった15キロ、たった15キロ」 頭の中で、連呼している。 身体を傾け、前へ前へ。 今、どれくらいだ? 4キロ、5キロくらい? だったら、10キロ近く残っているのか? ヤダヤダ。 上りの3キロを走り続けられるわけはなく、途中から、歩き、走り、歩き、走りを繰り返す。 想定どおりだ! 

 ここら辺を走っている皆さん、さほど、差はつかないですよ。 だって、抜かし抜かれつしながら、走り続けるんだからさ。 ウォークマンを聴いていないせいか、俺の呼吸音がまともに耳に入ってくる。 ゼーハーゼーハー言ってやがる、お前は、ダースベイダーか? やっぱ、キツイじゃん、だから言ったのに。 何で、走るんだろう? 分かんねぇなぁ、何でだ? 何にしてもだ、彼女がゴールで待っているんだからさ、一刻も早くゴールするために走れ!! 

 呼吸、ゼーハー言っている、でも、まだ、これくらいだったら序の口だな、まだ行ける。 歩きながら考える。 しゃーねぇな、走らなきゃゴールできないんだからさ、さぁ走れ。 まだ、やれると思っているんだろ? だったら、走れや。 これって、自問自答? 

 ランナーに抜かされると 「抜かされたって良いじゃないか、だって人間だもの みつお」 とか、訳の分からんことが頭を過ぎる。