五十の舞 その6

 ヤバくなってくると、耳に聞こえてくるのは、ウィリアムテル序曲!! 始めは、ゆっくりと流れ始め、徐々にスピードが上がってくる。 小便も、出口を求め突進を始めておる!! タカッタタカタッタッタ ヤバイヤバイ!! 左手に公園発見!!! ランナーもそこから走り出している! ってことは、トイレがあるってことか? 左後方確認、ランナーの流れを妨げずに右に流れてゆく、緊急事態であったも冷静に左折! おぉぉトイレ発見!!  トイレに向かい、一目散でダッシュ! うん? 何か張り紙がされておる。 青梅マラソンに関することか? 近づいて見る。 「このところの低温で、水道管凍結のため使用を中止します」 なんとぉぉぉ!! 使えないじゃん!! さっきのランナーは、これを見て、猛ダッシュして、次行ってみよう! となった訳だ。 俺も、次行ってみよう!!

 ヤバヤバ、トイレ発見に精神的な気の緩みが出てしまった、ウィリアムテル序曲再びだぜ! 

 間もなく5キロになる。 ここら辺で、トイレが出てこなければおかしい! 小便を我慢しながら走るのは辛いぞ、力むに力めんからな。 おっさんになると、小便早くなるし、我慢も出来なくなるんさ。 

 おぉランナーが入ってゆく建物がある。 何だ? 市民会館だ! おっしゃーーー!! 急げ急げ! 入り口で、「すいません、トイレ借ります!」 「1階だけじゃなく、上にもあるから」 おぉ係りの方も判ってらっしゃる。 
 REOスピードワゴンに被って、ウィリアムテル序曲の二重奏だぜ! REOは、「愛は気ままに」 を流しておった。 この頃のREOは楽曲も、こなれてきて耳触りが良すぎる。 悪いこっちゃないけれど、良くもない。 帯に短し、襷に流しと言ったところかな。 作っている方にしてみれば、「好きな事ばっか、言いやがって!」 と思われるだろう。 

 トイレを探している時は、そんな事を思う余裕もなく、「膀胱やべ膀胱やべ」 っと頭の中で連呼しておった。 3人が同時に流れ込む! 誰が行っとはじめに行き着くか!! こんなとこで、レースか? 当然であるが、既に並んでおる。 並んでいる一人が 「トイレ1つしかないよ」 と聞こえ、3人同時に方向転換、頭によぎったのは、「2階だ! 2階へGOだ!」 

 小走りのトイレ探しの3人衆は、階段近くにあるエレベーターに傾れ込む。 入るなり、2階を押す、一人が 「私は3階へ」 並んでいると予測し、3階へ行くか、俺は2階へ行くぞ! 3人無言であるが俺たちは2階、あなたは3階と選別されておった。 緊迫しておる時って、言葉に出さずしても行動が読めるのは笑える。 2階に到着し、3階を選択した一人に 「友よ、健闘を期待する」 と、訳の分からんアイコンタクトをし、トイレを目指した。 やったーーー! 小便器×3の個室×2だ! 小便器2つ埋まっていたが、1つで用を終了し、そこに俺が収まり、個室に一人が収まった。 友よ、さらばだ、今度会うときは、敵同士だと、思いながら用を足す。 

 速攻で、相棒を引っ張り出し、一気に放水。 いやぁえかったえかった、危なかったぜ、ベイビー。 ウィリアムテル序曲が、ゆっくりとフェイドアウトしてゆく・・・危機は脱した。