Henro walker 5月16日

 暑いのに彼女は、ウインドブイレカーを着ていた。 うん? 違うなぁ、レインウエアか? 「もしかして、レインウエアを着ているの?」 「そうです」 「暑くない?」 「暑いですけど、それ以上に日差しが怖いです」 そーいやぁ、東南アジアでも居たなぁ。 「俺なんか、ほら?」 と言って、シャツを捲くり、ローストされた腕を見せる。 「それは、火傷っていうんですよ」 「火傷ですか」 

 山道だったら、さほど、日差しにゃ晒されんかったもしれんが、国道は、照り返しがあり、暑い。 午前中で、これだと、もーちょっとすると、ローストになった日と同じくらい暑いんじゃね? ここから、次の目的地、大日寺までは、約10キロほどである。 普通に歩いてゆけば、2時間半ほどで、通過してゆく距離であるが、膝を痛めた状態で、歩くとどれほど掛かるかは、分からん。 荷物が思っている以上に曲者だ。 歩くのと、走るのでは、何故にここまで、時間が違うのか? 10キロをてれんこ走っても、1時間ほどで消化する。 歩くというのは、思っている以上に忍耐力が必要である。 

 山道ではなく、国道を歩いておると、車に気をつけにゃーならん。 大概、一車線で、端に歩行者用のラインが気持ち程度に引かれておる。 ここら辺は、日本全国共通なんだな。 歩き始め、横を歩いておったけれど、これだと車が来たときに危ない。 後ろから着いてゆくのが、よいのかと思い、後ろをてこてこ歩くことにした。 

 曲がりくねった峠道を歩いておったら、急に軽自動車が俺たちの横に止まった。 なんだ? っと、思ったら、扉が開き、「どうぞ」 と言って、飴が差し出された。 お接待である。 「ありがとうございます」 と言い、受け取る。 好意を断っちゃいけないのだ、素直に頂く。 

 話しの取っ掛かりは、有給ですか? というところから始まり、何故、四国お遍路に? という流れで話しをする。 当然、自分自身から、理由を話してから、相手の理由を聞くのである。 一方的に聞いても、話してくれん。 当然、色々理由があるだろうから、無理強いも出来ん。 
 
 歩きながら、「何で、お遍路の来たんですか?」 と、聞いてみた。 「なんとなくです」 「なんとなくですか?」 ちょっと拍子抜けの返答である。 それなりにみんな、理由があってきてと思っておったから。 「あなたは、どうして?」 「はじめ、北海道でも歩こうかなぁっと思ったんだけれど、あまりにもベタ過ぎて、自分家から歩いて、疲れたら、ホテルに泊まるというのを繰り返そうかと思ったんですけど、これも面白くなくて、そーいえば、水曜どうでしょうで、四国お遍路の旅に行っていたなぁっと思い、お遍路に行ってみるかっと、いい加減な気持ちで、来たんすけど、上司が癌になっちゃって、それの願掛けに代わりました」 北米徒歩の予行練習は、アホに思われるので、割愛した。 

 「荷物、軽そうですねぇ」 俺の薄っぺらな荷物を見て、やっぱ軽そうに見えるらしい。 「結構、色々詰まってますよ 読もうと思っている本と、四国関連の本が2冊入ってます 読む本に関しちゃ、立ち寄ったうどん屋さんで、読みゃしないんだから、持っててもしようがないよと言われた そのとおり、読んでない」 こんな当たり障りない会話を数時間に渡ってしたのだ。 

 大日寺に向かうには、ルートは二つ。 山を抜けてゆくか、この国道を歩くかである。 殆どの人が、山道を選択したのか? 誰にも会わん。 宿が一緒だったもう一人の女性は、こっちをチョイスしているはずなのだが、影も形も見えん! 

 一体、どんな話しをしていたのか? 俺自身もよー覚えていない。 相手の疲れ具合や、表情を見ながら話していたんだろうなぁ、だから、断片的にしか覚えていない。 普段、あまり人に関わらないし、よっぽどのことがない限りは、人助けはせん。 誰も助けんかったら、助けようかというタイプだ。 東京に居ると、人が沢山居って、何かが起きても、俺がやらんでも、誰かが手を貸す。 思っているよりも、世界は、冷たくはないと思う。 

 一緒に居た連中が先に行ってしまい、俺が、ここで助けんかったら、誰も助ける人が居らんと思ったのと、ここで、神様にゴマを摺っておけば、天国のエコノミークラスがもらえるかもしれんと思ったのだ。 俺は、天国に行けると思っちゃいない、だから、ここでやっておかなきゃ! という時には、やることにしておる。 俺が天国に行けるとしたら、ディスカウントのエコノミークラスだと思っている。