Henro walker 5月16日

 登り始めちまったら、戻ることは考えめぇー、ひたすら進むのみで、ござんす。 このおじさんも、リタイヤした人のようで、相続で、山を持っているらしく、そこを週に1度は、確認のために登っておるようで、その山が、こんな感じの登坂だと言っていた。 すたすた登って行っちゃうから、離されまいと、しっかり着いていった。 逆だろ? って、思うだろ、山慣れてしている人には、敵わないんだよ。 

 相変わらず、急斜面を登ってゆき、下って、再び、登る。 「もぉー朝っぱらから、この調子かよ」 一晩寝てリスタートでも、20分も歩くと、息が上がって来やがる。 思っているよりも、おじさんのペースが速いんだ。 おじさんが、おじさんって呼ぶって一体? まぁいいか。 再び、Well come to the jungle である。 
 結局、あれなんだよな、焼山寺がピークであり、それに順ずる山がまだ、残っているってことだ。 相変わらず、判りにくい案内マークである。 でも、こいつがないと、途方にくれちまう。 ありがたや、ありがたや。 
 しかし、お遍路で歩いておると、実生活から逸脱している気がする。 まず、周辺が山々であり、景色を遮るビル群がない。 誰も、俺の事を知らない! これは、大きい。 普段、通勤で乗っておる電車でも、通勤のたんび会うおっさんがおる。 知っている訳じゃないけれど、知っている人というカテゴリに辛うじて、区分けされる。 相手も、こいつ、いつもおなじ電車に乗っていやがると思っているであろう。 俺も、「ハゲチャビン」 とか 「まるっきり動かないじじい」 とか、勝手にあだ名をつけて呼んでおる。 
 そーいう下らんストレスから、開放されてるんだろうなぁ。 

 登坂を抜け、舗装路に出た。 矢印は、ちょい左斜めを指しておる。 これを普通に見ると、舗装路に乗っかり、左に曲がって進んでしまうのだ。 おじさん、左に進み始める。 ふと、見ると、舗装を挟んだ先の山の登り口に矢印があり、斜め右を向いている。 「こっちじゃないですか」 矢印のある山を指差す。 「こーいう難しい案内しているんだよねぇ」 そうそう、もうちょっとで、トラップに引っかかるところだった。 

 あとから聞いたら、このトラップに引っかかった人は、結構居った。 道しるべが、間違っとる! と、分かるのは、かなり先に進んでからのことになる。 

 再び、登坂が続き、足元、上を交互に見ながら進み始める。 曲がりくねった登坂の先に人影が見える。 先行している人が居るようだ。 足下、上を見ながら登って行くと、先行している人へ徐々に差が縮まってゆく。 遅れている? 後姿を確認したら、20分ほど、先行していた筈のメガネの女性だった。 

 時間を掛けずして、真後ろに着いた。 「どうぞ、先に行ってください」 と道を開けられた。 その時は、合点がいかなかったが、膝の具合が良くなかったのだ。 一度、痛めてしまうと、一日で復調はしないもんだよな。 24時間テレビに並行して動くトレーナーが居る訳じゃないから、自分自身で、体調管理、やる、やらないを判断せにゃ―ならん。 

 平坦な場所に出て、小さい神社があった。 ちょうど良い休憩場所だ。 朝っぱらから、良い汗をかいてしまった! 「すいません、撮ってもらっていいですか?」 メール配信するための写メをお願いした。 同じ目的の人しか居らんから、気軽に写メをお願いできる。 観光地で、写真をお願いすると、ダッシュして逃げられて持ち去られてしまうなんちゅーことは、日本じゃ考えられんが、街中で、お願いするのは、ちょっとばかり恥ずかしい。