チャンバラ

 チャンバラ、ちょんまげ、坂妻、アラカン、以前は、時代劇が、生活の中にちゃーんと位置を占めておった。 おふくろの実家に行くと、じいさんの付き合いで、水戸黄門やら、大岡越前やらを見ておった。 「チャンバラ見るぞー!」 っと、じいさんも宣言してから見ておった。 

 チャンバラという名前そのまんまに斬り合いがメインで、勧善懲悪である。 水戸黄門は、20:40分過ぎに印籠が出て、大岡越前は、御白州になる。 みーんな、終了5分を切ると解決に向け、進行するのである。 お約束だな。 力道山は、外人レスラーをなぎ倒し、王さんは、ホームランを打ち、長嶋は、ステップを踏むのである。 そーいったものを歓迎する風潮があったよな。 映画も当然、そんな流れになっている。 

 平成に入り、本格的に時代劇が不調になり、金も場所も掛かる時代劇は、徐々に少なくなっていった。 そんな頃に 「たそがれ清兵衛」 が出てくる。 アンハッピーじゃないけれど、ハッピーエンドでもない。 当時の糞詰まりっぽい世情を反映させたのかなぁ。 

 今も、そこら辺の流れを汲んでいるんだろう。 今回観たのは、柘榴坂の仇討

 これ、桜田門外の変で、討たれた主君・井伊直弼の仇を討つことを命を受けた者の明治を跨ぐ13年の年月の話である。 とても丁寧に作られておるのが、好感を持てた。 目玉は、井伊直弼を重鎮 中村吉右衛門 が演じておることかな。 映画出演は、鬼平以来じゃなかったかな。 歌舞伎俳優って、台詞回し、群を抜いて上手いよ。 時代劇でも、現代劇でも、なんだろう普通の役者じゃ出来ない台詞回しをするんだよな。 吉右衛門だったら、低くて、聞き取りやすく、力強いんだ。 只、低いだけだと、駄目で、何を言ってるんだか分からなかったりする。 これにも出ているんだけれど、役者やり始めの頃の阿部寛は、何を言っているんだか、さっぱり分からんかった。 発声って、大事なんだな。 せっかく低いよい声を持っておっても、聞き取れないんじゃしゃーないもんな。

 大老を守りきれんかった男、志村金吾を中井貴一 時代を変える思いで、大老を討つ男、佐橋十兵衛を阿部寛 両名とも、静かなトーンで、演じきっておる。 中井貴一は、役が嵌らんと、大根と化すから、どうかな? っちゅー思いがあった。 今回は、ジャスト合っておりました。 いやぁ、映画館で、時代劇を観たのは、始めただったんだけれど、斬りあいで、当たる刀の音が重厚で良い、脇から抜き、畳に刀を置くときのドスっという音がホンモンっぽくて良かった。 テレビじゃ、あの音は出ないな。 

 そして、昔のように大きな時代劇のセットはないが、CGで、上手くカバーしていた。 時代劇とかでは、使っている箇所が判らんように使うのが、良い使われ方だな。 江戸の街並みの奥まで見せているが、途中からCGなんだろうが、よく出来ていた。 そして、オープニングの雪景色は見事だった。 

 時代背景は、激動なんだけれど、そこをあえて静かに静かに描き、追う者と負われる者の静かで、消えることない情念と魂を上手く描けていたように思う。 一昔前だったら、まったく違ったラストになっていただろう。

 美味しいとこは、全部、吉右衛門が持ってっちゃいましたとさ。