Henro walker 5月15日

 登り口で、明らかにうちらと違う服装の人が居った。 服装が違うからといって、遍路じゃないというわけではなく、本当の修行僧なのだろう。 俺のようななんちゃってではなく、笠から何からか何まで違う。 笠は、黒くニスが塗ってあるのかなぁ、時代劇に出てくるような本格的なヤツ。 

 山に入ると、樹が鬱蒼としておるから、ひんやりと寒い。 下も、朝方まで、雨が降っておったからぬかるんでおる。 それでも、水捌けが良いのか、水たまりも少ない。 これがあると、これを避けなければならないし、避けるためにバランスを崩すこともある。 背中に荷物を背負っておるから、こいつを支えるために腹筋が必要だ。 いつもの調子で、登ってみた。 ガンガン行くという方法だ。 マラソンをやっておるから、息切れは気にかけないのだ。 ハアハア言いながら、そんなもんだろうと思いながら登る。 

 登りはじめて、10分ほどして、暑くてしようがなくなった。 そーなんだよ、登っている時は、薄着で、休憩しているときは、1枚羽織るという鉄則を忘れておった。 こりゃ駄目だ。 こんな調子で登っておったら、へばってしまうと思い。 ちょっと開けた場所で、荷物を置き、ウインドブレイカーを脱ぎに掛かった。 簡単にパパンと脱げる訳ではなく。 まず、笠を脱ぎ、肩から提げているウエストバッグを取り、ここでやっと、ウインドブレイカーが脱げる。 こいつを丸めて、バッグに入れ、白衣を引っ張り出し、ウエストバッグを提げて、笠を時間が掛かって被り、やっと、リュックを背負い、リスタートとなる。 

 これをやっておる間に抜かした方々に抜かされ、地元のじいちゃんの散歩ズに抜かされた。 散歩ズは、いつもこんなとこを歩いているのか? 都会の人たちは、歩くのが早くて、健脚だというが山を闊歩する方がよっぽど、健脚だと思う。 

 10キロ弱の荷物を背負い、登り始める。 登坂は、さほどキツイとは思わないが、ずーーーっと登坂、只ひたすらに登坂。 富士山じゃないんだからさ、永遠登坂はないでしょ。 いつもの調子で、登る、息切れしようが、苦しかろうが登る。 登れど登れど、平地は見えず、見上げると、登坂。 「これ、きついな」 言葉に出していった。 何が一体、キツくさせているのか? 荷物か、暑さか、足元の悪さか、傾斜か? 山を登りながら、考えてみる。 全部じゃねぇか? 札が下がっており、見てみると 「無心の境地」 と書かれておった。 ハイハイ、判りました。 

 ハァハァ言いながら、30分ほど歩いたら、人の気配を感じる。 おぉ平らな場所だ平らな、登坂じゃないっていうのは、こんなにまで嬉しいのか? そこは、長戸庵、一つ目のポイントだった。 先行の人たちが休憩していたのだ。 人が居たのも嬉しかったが、これで、休めるという安堵もあった。 一人登りの危なさは、自分自身でコントロールせんといかんのだ、休憩も、食事も、ペースを上げることも、下げることも、すべて。 確かに一人だから、ダラダラ登れる人も居るが、俺のように何かを課して登るアホもおる。 

 ふと、見たら、初日から一緒だった女性がおった。 「あれ? おはようございます」 「あれ、どうも」 スタートした日付が一緒だと、大きく差が付くことはない。 ちょっとしたコミューンとなって、移動し続けるのだ。 3回目のお遍路をこなしていた人が言っていたが、徳島県を抜けると、寺と寺のスパンが長くなり、人と交わるのは、抜かされるときか、抜かすときだけらしい。 あとは只管、歩くだけ。 

 5名ほど、休憩していた。 先行して出発した一緒の宿の人を探したが居らんかった。 このあと、その人と出くわすことはなかった。 俺なんかよりも無駄なく歩き、進んでいるのだろう。 

 「雨が降らなくて良かったですね」 「そうですね、思っていた以上に登坂が続くので、ビックリですね」 その中にちょっと強面の人が居って 「そんな、急いで登っちゃ駄目なんだ ゆっくりでいいんだ、ゆっくりで」 と言っていた。 「しかし、最近の女の人は、凄いよねぇ、メガネ掛けた子は、スタスタ先、行っちゃったもんね」 このコミューンよりも先に進んでいる人達が居るのか、どっかで、追いつくかな?