Henro walker 5月13日

 
 当然だが、来られておる人たちの年齢層は高い。 定年を迎え、色々やりたいこともあるけれど、時間もたっぷりあるし、金もそこそこある、ちょっくら、歩き遍路でもやってみようかなぁとなるのかもしれない。 2回目、3回目、10回目という人も居った。 もちろん、一気打ちである。 

 お遍路は、色んな術があるが、一番金が掛かるのが、実は、歩き遍路なのだ。 パックツアーでバスで、サーーッと周ると、1週間ちょっと位で、巡るのかな。 それで、200000円くらいなんじゃないのかなぁ。 歩きだと、40日〜60日位掛かる。 それをだな、宿に泊まって巡ってゆくのだ。 宿は、一泊二食付きで、7000円前後かな、それを×40日するのだ。 単純に計算して、これだけで、280000円、これに雑費や、昼食代が掛かってくる。 350000円〜400000円位かな。 まことに高価な旅行になるのだ。 しかし、大金払って、歩くんだからな。 

 3番目の金泉寺をクリアし、4番目に向かう。 今日は、7箇所打つつもりでいる。 初日から、7箇所って、凄いと思うかもしれないが、数ではなく、寺と寺の間の距離の問題なのだ。 今日は、2キロから、5キロくらいしかないので、足慣らしのは、丁度良い。 このあと、寺の間が20キロというのが出てくる。 これも、全体から見ると、大したことはなく、90キロなんちゅーところもある。 当然、1日じゃ進めんから、30キロずつ3日に分けてこなすことになる。 4番目の大日寺までは、5キロである。 大したことはない。 

 お遍路の恰好は、自由なんだなぁっと思ったのは、白衣の下に迷彩を着ておるおっさんも居るし、ジーンズのもんも居る。 迷彩のおっさんは、目立ちたがりやなんだろうなぁ、あえて迷彩を選択する必要はないしな。 あとは、極々普通の恰好のご夫婦が居った。 山に行くような恰好だな。 金剛杖の代わりにストックを持っていた。 俺の方が、いつもちょっとだけ早く進んでいた。 このご夫婦、必ず、「3番は、こちらでいいんですか?」 と、聞いてくる。 自分たちで、全然調べないんだなぁっと、思いながら、こーいう人たちもいるんだろうなぁ。

 4番目の大日寺に向かい田んぼの中をひた歩く、1200年続いた遍路道を歩いておる。 この道を一体何人の人が歩いたのか? 時代を超越し、繋がっておる。 妙な感じだ。 時間は、11時を回っていた。 腹が減ってきた。 バイキングで食ったクロワッサンと、うどんだけじゃ腹が持たんな。 田んぼの真ん中にうどんののぼりが見える。 こんなとこで、うどん屋か? 見つけたときに食うのが正しい判断だ。 
 普通の民家の脇が店になっておるようだ。 中に入ると、お遍路の先客が居った。 真剣に地図に見入っていた。 うーーン、ちょっと話しかけづらい。 「すいません きつねワカメうどんをください」 メニューのきつねとワカメが目に入ったので、安直にそれに決めた。 外食で、メニューを見て、迷うことはない。 入り口に掲げてあるお勧めメニューから決めるか、カレーライスがあったら、カレーにする。 ラーメン屋に入ると、邪道だが炒飯を頼む。 カレーと、炒飯は、その店の個性が反映されておることが多いし、「こりゃ、美味い」 ってもんに当たりたいからでもある。 今まで、唸るほど美味いもんには当たったことはないな。 

 お互い、お遍路初日のせいか、かかわりも単葉にしておるような感じだった。 普段だったら、気軽に話しかけるのだが、なんていうんだろう、話しかけないでくれオーラを出している人は、分かるんだ。 この人は、そんな感じだった。 
 徳島は、うどんが、名物な訳じゃないと思うんだ、讃岐うどんの名所の香川県が隣だということで、うどんを出しているんじゃないのかな。 そっちよりも素麺の方が名物だった気がする。 そして、俺は、生まれてこの方、讃岐うどんを食った事がない。 東急インのバイキングで食った、うどんが初めてってことになる。 今回の旅で、徳島から出ることは出来んだろうが、うどんは食っておこうと思った。 

 10分ほど待って出てきたのは、温かいうどんだった。 俺は、冷やしを勝手にイメージしていただけに冷たいもんを食おうとしていた味覚の準備を引っ込めることになる。 甘いもんかと思って食ったら、甘くなかった。 紅茶かと思って飲んだら、麦茶だった。 舌の準備が出来ておって、予想とちゃうもんが入るときのガッカリ感。 一口食って、ガッカリぶっ飛んだ。 出汁がしっかり出ているのに薄味のスープに腰の強いうどんに歯ごたえばっちりのワカメにデカイきつね。 「美味しい」 口出して言っていた。 俺、蕎麦は食うんだけれど、うどんは滅多に食わん。 美味しいと思わんのだ。 それは、本当に美味しいもんを食った事がなかったからだ。 美味しいもんを食うという幸福は、美味しいもんを知ってしまい、不味いもんは食えないということだ。 旅の間、美味いもんにばっかに巡り合い、俺が如何に不味いもんばっか食ってきたかを知ることになるのだ。 
 食い終わり、会計を済ませ、笠を被っていた。 どーにも、やりづらい。 「笠を被るのは、なかなか難しいですね」 と、店の人に話しかけた。 「見せてごらん」 と言って、笠の中を確かめて 「二点止めになっているね、これでいい、笠を直接被っちゃ駄目だよ、痛くなるから、直接笠にタオル巻きつけるのいいし、手ぬぐいほっ被りしてもいいし、少しずついいように改良してゆくんだよ」 「荷物は、コンパクトに纏まっているようだね」 「でも、ガイドブックと、本を1冊持ってきちゃって」 「本なんか持って来てもしようがないよ、どーせ疲れて読まないんだから、見るのは、地図帳だけでいいの」 確かにそのとおりでした。 色々教えてもらった。 最期に飴玉をもらった。 これ叉、色んなとこでもらう。 こーいうのがお遍路文化っていうんだ。 「色々ありがとうございます、ごちそうさま」 「気をつけて、いってらっしゃい」