Henro walker 5月13日

 翌朝、天気はしっかり、回復しておった。 7時には、出ようと思っていたけれど、朝食のバイキングが付いていたから、それを食ってから出りゃいいかと、ゆっくり目のスタートになった。 バイキングって、たくさん食えそうで、自分勝手に皿に盛るから、食えないし、偏るんだ。 俺は、サラダにソーセージにクロワッサン、そして、コーヒーを一杯。 これだけじゃーさびしいから、名物のうどんを食おう。 うどん以外は、いつもの朝食と大して変わらんじゃないか! やっぱ、そーなるんだ。 

 いつものよーに早食いをし、そそくさとチェックアウトする。 7時半には、ホテルを出た。 外気がちょいと冷たい。 でも、天気予報じゃ、26度とか言っておったな。 片側3車線ある真っ直ぐのメインストリートのはずなのに閑散としておる。 古びたビルが点在しており、店は閉めているようだ。 東京に慣れておると、駅周辺は、ギューギューに栄えていると思ってしまう。

 丁度、ラッシュアワーの筈なのにあまり人は居らん。 人も、忙しく歩いておらん。 車もかっ飛んでこないし、チャンリコは、傍若無人に走っておらん。 そんなことを見ながらも、緊張は解けておらんかった。 これから、手早く、お遍路スタート地点、坂東に向かう。 そこで、お遍路のグッズを買いこまなければならない。 傘、白衣、線香入れとに当然、線香に蝋燭、奉納札朱印帳。 ここら辺を買って、1万円弱かな。 形から入る事が正しいのかどうかは、分からんが、とりあえずは、その格好をしてみようと思っている。 基本的にお遍路の形は、自由らしい。 とにかく、色んな形がある。 まず、俺のように歩いて周る人。 車で周る人。 電車、バスなどの交通機関を使って周る。 
 寺を周ることを打つというんだ。 この打つ、納札を納める事からきているようだ。 順番であるが、これ叉、決まりはない。 俺のように一番から順番に打ってゆくことを順打ちという。 小説 「死国」 だっけ? あれであった逆打ち、この名のとおり、八十八番から打ってくる。 そして、八十八箇所一気に行ってしまうことを通し打ちという。 当然だが、はじめ、歩いて打とうと思ったけれど、思っている以上に大変だから、交通機関を使用に切り替えるも良し、行程順番を変えることも一向に構わんのだ。 着いてみて、感じたが、思っている以上にフリーなのだ。 これも、お遍路の魅力だな。 

 券売機で、260円を求め、改札に向かう。 条件反射で、自動改札を探してしまった!! 左を見ると、駅員さんがスタンプを押してくれる。 「すいません、お遍路のスタート、ばんどうって言うんですか? そっちゆきの電車は、どれに乗れば良いですか?」 「うーーん、3番線ホームで、8時26分」 「ありがとうございます」 うん? 8時26分? まだ、7時台だろ、何故に8時? 電光掲示板を見上げる。 3番線 高松方面 8時26分 ワンマン あぁ、そーいやぁ、今沢山の人とすれ違ったな、出発したばっか。 これがローカルの1時間に1本ってヤツか。 前日に駅に来たときにちゃーんと、時刻表チェックしておけば、時間に合わせて、飯食えたのに。 しゃーない、焦って、どーにかなるもんじゃない。 
 山手線のように数分おきにやってくる東京と違うし、ちょっと、遅れて腹を立てるレベルじゃない。 時間が、ゆっくり流れる訳だ。 
 しゃーないんで、駅に座って、1時間ぼーーっとすることにした。 これから暑くしちゃうよと、照り付けてくる太陽。 それを遮るように心地良い風が吹きぬける。 「これより、2番線に・・・」 自動アナウンスじゃなく、駅員さんがちゃーんとアナウンスしている。 プラットホームに電車が到着しない訳じゃなく、徳島止まりの電車が入ってきて、反対側のホームに向かい乗り換える。 基本、一両編成。 
 ボーっとしておって、気がつかんかった、電車にパンタグラフが付いておらん。 電線もない。 ディーゼルか? ぶぉぉぉぉーーんと、エンジン音を上げながら動き出す。 
 
 ちょっとした時間でも、色々と発見があるもんだ。

 「間もなく、4番線に高松方面行き・・・」 やっと、電車がやってくる。 ディーゼル車は、電車と呼ばないんだよな、汽車だったな。 2両編成でやってきて、この駅で、二つに分かれ、前方が先発、俺が乗る方が後発である。 乗り込むと、「整理券をおとりください」 と自動でアナウンスされる。 田舎のバスと同じだ、掲示板に駅名と金額が順番に表示される。 

 一両編成だから、混むんじゃないか? と、思ったが、丁度、全員が座れる程度の混雑である。 斜め前に座った老夫婦は、ガイドブックを見ながらのお寺巡りのようだ。 後部座席の一番端に白いお遍路の恰好をしている人が見える。 すげぇなぁ、既にちゃーんと、恰好から準備しているんだ。 頭の天辺から、足の先まで、真っ白である。 荷物の大きさから考えると、歩き遍路なんだろう。 なかなか、真っ白に準備することは出来そうで出来ない。 この白装束も、昔は、命がけの行為だったから、途中で行き倒れてもよいようにという扮装である。 凄いよな。 地図を開き、行き先を確認している。 俺の持っているガイドブックは、各項目で、3センチ×10センチの大きさの小さい地図しか付いておらず、大雑把にも程がある。 東京に居る間にお遍路用の地図を購入しようと思ったのだが、あれよあれよ、日付が経過し、ふと気づきゃ3日前! ネット販売だって、手元に届かん。 翌日に届くのは、アマゾンと、楽天位のもんだよ。 こっちに来れば、手に入るだろう位に思っていた。 
 
 坂東駅に着き、ワンマン運転の意味を理解する。 これ又、バスと一緒、下車時に整理券と切符若しくは、金額を支払うのだ。 何故に現金で? と、思うだろ。 無人駅で、発券機がないところは、券を買わずに乗車し、降りるときに支払うのだ。 東京じゃ考えられん人の温もりじゃないか。 坂東で、降りたのは予想通り、老夫婦と、白装束と、俺。